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体性感覚誘発電位(SEP)

 

体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potentials: SEP)

 

体性感覚誘発電位(SEP)は、末梢神経から脳に伝わる伝導路の機能検査です。手足などの体の一部から脳に伝わる情報は主に感覚情報になります。つまりSEPは感覚の伝導路の機能検査です。

 

臨床で通常用いるSEPは刺激が脳に到達するまでの短時間のSEPです。これを短潜時SEP(SSEP)と呼びます。

 

SEPを行う場合、通常、上肢や下肢の太い神経を電気で刺激します。よく使われるのは、上肢では手首を通る正中神経と呼ばれる神経です。手首の内側のほぼ真ん中を走っています。また、下肢では、後脛骨神経(足首)もしくは腓骨神経(膝)です。

 

こうした神経に数-20mA程度の電流を3-5Hz程度で流すと,末梢神経が刺激されて,神経を伝わり,脊髄を介して脳に到達します。脳の感覚中枢は頭頂葉の前方部分にあります。丁度、頭の真ん中、耳の上の方にあたります。なお、SEPの電流は局所に多少の痛みを伴うかもしれません。手術中には全身麻酔の影響で痛みを感じなくなっている代わりに神経の反応も低下しているので、20mA程度の強い刺激を行います。

 

正中神経刺激の反応を見る場合、鎖骨の付近や後頚部、そして刺激する手とは反対側の耳の上のあたりに電極を付けておくと、その近くの神経を流れた電流を記録することができます。約9ミリ秒後に発生するP9は腕神経叢、約11ミリ秒後に発生するP11は脊髄後索にその起源があるとされます。そして、約13ミリ秒では頚髄に由来するN13-P13が発生します。手首から脳に電流が伝わるのに要する時間は、およそ20msec(1000分の20秒)です。この反応は、記録上は陰性(negative)の反応ですのでN20と呼ばれます。

 

 

SEPの臨床応用

 

SEPは通常、感覚障害のある患者の病変部位の診断に用います。たとえば、SEPの反応に遅れがある場合に、手から脳までの各部位で反応を記録し、その反応がどこで遅れているのかを特定することにより、脳から末梢神経までのどこに具体的な障害部位があるのかを明らかにすることが出来ます。

 

一方、我々脳神経外科医はSEPを手術中の脳・脊髄の機能判定に用います。脳血流に関わるような手術では、脳へ行く経路の血流を遮断した際に反応が悪化すれば、脳血流の不足が深刻なレベルにあることを示唆しています。この状態が持続して回復不能な状態にならないように注意を促すことが出来ます。

 

具体的には、一次運動野近傍の脳腫瘍における脳機能の確認、脳脊髄を通る感覚機能に関する様々な手術、脳動脈瘤頚動脈狭窄症などの脳血管の手術(脳血流障害の予測)など、その用途は多岐にわたります。

 

SEPの記録電極は脳表そのものに置いて記録すると、よりいろいろなことが見えてきます。一つには、SEPの反応は耳の上側にある一次感覚野で特に良好です。また、その前方に存在する一次運動野では一時感覚野と反対向きの反応が得られます。従って、反応が最大になり、なおかつ反応の向きが入れ替わる点を見つけることで、中心溝(一次感覚野と一次運動野の境界)を同定することができます。手の運動機能や感覚機能はとても重要ですので、この機能に関わる部位を同定することで、より安全な手術を行うことが出来ます。

 

また、脳の一次感覚野に電極を置いて手術中に連続して記録することで、その反応が低下することがないかどうかを確認することもできます。

 

 

手首の正中神経を刺激し、脳表に置いた電極から記録したSSPE。20msec(ミリ秒)で見られる波形の山が、中心溝を境に逆転しているのがわかります。