脳の病気まるわかり

もやもや病

 

もやもや病とは

 

内頚動脈の末端部分(内頚動脈終末部)が非常に細くなって、脳血流が悪くなる病気です。脳梗塞のほか、脳出血や頭痛などの症状を引き起こします。

 

大動脈から枝分かれした総頚動脈は、頚部で内頚動脈と外頚動脈に分かれます。そのうち、内頚動脈は頭蓋内(つまり脳)へと向かいます。頭蓋内に入って間もなく、前大脳動脈と中大脳動脈に分かれるまでを内頚動脈と呼びます(参照:脳血管の解剖(動脈系)。
この分かれ目のところが細くなるのがもやもや病です。

 

原因は明らかではありませんが、ある特定の遺伝子を持つ方に多く発症する傾向があることが示されています。東洋人に多いことが知られています。1957年に本邦で発見され、1969年にもやもや病と命名されました。海外でも、“moyamoya disease”で通用します。別の名を、特発性ウィリス動脈輪閉塞症とも呼ばれます。

 

もやもやは基本的に両側性(左右の内頚動脈の両方に起こる)の病態であり、片側性の場合は片側もやもや病と呼んだりもします。

 

 

症状は

 

もやもや病は幼児期~小児期に発症することが多い病気ですが、成人で発症する場合もあります。発症の時期により症状は異なります。

 

小児のもやもや病で最も多いのが、脳の虚血症状です。つまり、片方(もしくは両方の)の手足の力が入りにくなるといった症状です。これが一時的に起こり、繰り返す場合を一過性脳虚血発作(TIA)と呼びます。これは脳血流が不足しているために起こる徴候であり、これが更に悪化すると脳梗塞となり症状が一時的でなく永続的なものになってしまいます。

 

虚血症状は、過換気により誘発されます。具体的には、激しい運動や、大泣きしたあと、ハーモニカやシャボン玉、熱いものをフーフーと覚ました直後などに発作が起こりやすくなります。

 

成人の場合、30~40歳代前後をピークとして脳出血を発症することがあります。もしくは、脳室内出血になることも多く、時としてくも膜下出血を起こします。脳出血の症状は、部位にもよりますが、麻痺失語などです。脳室内出血の場合は、意識障害で発症します。成人で虚血症状で発症することもありますが、その頻度は年齢とともに減少します。

 

脳梗塞脳出血を起こした患者さんでは、高次脳機能障害を起こして注意力や情報処理能力が低下することがあります。

 

もやもや病の他の症状として、頭痛てんかんなどがあります。

 

小児で一時的な手足の麻痺を繰り返す場合、若年成人が突然脳出血を起こした場合などにはもやもや病の可能性を考えます。

 

なお、家族発症例の患者さんも1割程度いるという報告があります。

 

 

類もやもや病

 

内頚動脈の動脈硬化、自己免疫疾患、髄膜炎、脳腫瘍、ダウン症候群、フォンレックリングハウゼン病、頭部外傷、頭部放射線治療後などを有する患者さんのもやもや病については、類もやもや病と呼ばれます。

 

 

検査は

 

小児で上記のような症状を伴い、頭蓋内異常を疑う場合には、まずMRIを行います。成人が意識障害で搬送された場合にはまずCTを行いますが、それで脳出血であることが分かった場合には血管系の異常を確認するためにCT血管造影やMRIを行うことになるでしょう。

 

 

MRI

 

MRIでは、脳梗塞の有無を検索します。また、脳の溝の部分がFLAIR画像で白くなっていることがあります(Ivy sign)。これは、もやもや病の患者さんの脳循環が不十分なことを表しているとされています。
また、同時に行うMR血管撮影(MRA)では、内頚動脈終末部の狭窄の有無がわかります。つまり、もやもや病の診断がつきます。

 

 

MRA(上から見た図)

 

MRA(正面から見た図)

 


MRI FLAIR画像(Ivy sign;矢印)

 

 

もやもや病の診断がついたら、治療方針を決定するために、脳血管造影検査SPECT検査を行います。

 

 

脳血管造影

 

脳血管造影は、1時間くらいじっとしていなければならない検査ですし、また少しの痛みを伴います。ですので、凡そ10歳以下の小児の場合には全身麻酔で行うことが殆どだと思います。
脳血管造影検査では、内頚動脈終末部の狭窄のほか、様々な所見が見られることがあります。まず、狭窄が内頚動脈終末部から前大脳動脈や中大脳動脈の根元にまで及びます。そして、その周囲の細い血管(穿通枝)が著明に拡張します。
また、眼動脈の枝が頭蓋内に伸びますが、これが発達して太くなったり、外頚動脈系の枝である中硬膜動脈(硬膜の主な栄養血管)が脳に入り込んだり、浅側頭動脈(頭皮の主な栄養血管の一つ)が骨を貫いて脳に入るようになったりもします。内頚動脈以外の重要な血管である、脳底動脈からは、後脈絡叢動脈や、後大脳動脈から脳表に届いた細い血管が異常に拡張して、内頚動脈領域に達するように発達します。これらは、内頚動脈が狭窄してしまったがために生じた側副血行路で、不足した脳の血流を補うものです。
ただ、補うのにも限界があって、バイパス血管が十分に発達せずに症状を呈したり、進行して末期には発達していた後大脳動脈も狭窄してしまい最終的に脳血流が足りなくなったりします。

 

 

脳血管造影(右内頚動脈検査)

 

脳血管造影(左内頚動脈検査)

内頚動脈の末梢部、前大脳動脈、中大脳動脈が細くなっているかわりに、もやもやとした血管が発達しています。動脈系の”脳血管の解剖”の写真と比べて頂くと分かりやすいと思います。

 


脳血管造影(椎骨動脈検査)

 

 

脳血流SPECT

 

脳血流が十分なのか、不足しているのかを調べる検査が、脳血流SPECT検査です。安静時脳血流SPECTでは、脳血流の左右差を確認します。左右差を比較して、悪い側の血流が反対側の90%未満だと軽度の血流低下、80%未満だと中等度以上の血流低下と考えられます。

より詳しく調べるためには、Diamoxという血管拡張薬を使用してSPECT検査を行う必要があります(負荷SPECT)。Diamoxは、炭酸脱水酵素阻害薬という利尿薬で、抗てんかん薬、緑内障治療薬、メニエール治療薬としての使用が認められています。抗てんかん薬として使われることは殆どありません。

 

Diamoxを使用すると脳血管が拡張します。ところが、脳血流が不足気味なところでは使用する前から既に慢性的に血管が拡張していて、拡張しきった血管はDiamoxの注射にも反応しません。ですから、Diamoxを注射した状態でSPECTを行うと、反応して拡張した血管の領域の脳の血流が増加する一方、Diamoxに反応しなかった血管領域の脳の血流は増えないどころか、場合によっては血流を奪われて減少してしまいます。Diamox負荷後の血流が安静時と比べてマイナスになっている例は高度の虚血があるとみなされます。また、増加率が10%未満の部分にも、中等度の虚血が疑われます。

 

 


脳血流SPECT(右のカラーバーで、赤い色の方が脳血流が豊富な部分で、青い色の方が脳血流が少ない部分)

 

 

SPECTの際にDiamoxを使用するのは、医療保険の適応外ですが、これまで長年に亘り慣例的に使用されてきました。ただ近年、急性心不全や肺水腫等の重篤な副作用が立て続けて報告され、死亡に至る例もあったため、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会、日本神経学会、日本核医学会の4学会から為るアセタゾラミド(ダイアモックス)適正使用合同検討委員会は2014年6月に緊急声明を発表し、現在では、検査が必要不可欠な場合にのみ実施する、患者の同意を得る、呼吸モニターや心電図モニター等を実施する、といった指導がなされています。

 

 

治療について

 

MRAや脳血管造影検査でもやもや病の診断がついた患者さんのうち、症候性(症状を伴っている)の例に対しては手術の方向で検討します。SPECTで中等度以上の血流低下が疑われる例については、手術を含めて慎重に検討することになります。そうでない場合には、必要に応じて抗血小板薬(血液をサラサラにするお薬; アスピリンもしくはシロスタゾール)を処方します。

 

手術

 

小児の場合、手術方法として間接バイパスと直接バイパスがあります。どちらも全身麻酔下の開頭手術になります。
直接バイパスでは、浅側頭動脈という血管を剥いて頭蓋内に誘導し、主に中大脳動脈の枝である脳表の血管と吻合します(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)。浅側頭動脈はこめかみの部分で前頭枝と頭頂枝の2本に分かれて頭皮に到達します。吻合のやり方は施設により様々で、1本を用いたり2本ともつないだりします。また、後述の間接バイパスを併用したりもします。

 

もやもや病の小児の血管はとても細いので、血管吻合の中でもかなりのテクニックが求められます。直径が0.5~1mm程度の非常に細い血管同士に、全部で8~12針ほど縫って繋ぎます。この間、早い人で20分程度ですが、40分程度かかることもあります。うまくいなかなかった場合の結果は、血流が流れないということになります。血管吻合に使用できる代替血管はないので、一発勝負です。

 

直接バイパスの場合、バイパス後の早期の合併症が問題になります。一つには、術中や術直後(~1週間程度)の脳梗塞です。これは、様々な要因で生じえます。術中麻酔にて血圧が下がり過ぎて生じることもありますし、術後に吻合した血管の影響により頭蓋内の血液の流れのバランスが変わってしまい、そのために脳梗塞を起こしてしまうこともあります。もう一つは、術後早期に血流が急に増えたことによるもので、過潅流症候群と呼ばれます。症状による脳梗塞と区別が難しいことがあります。

 

間接バイパスとは、側頭部の筋肉(側頭筋)の一部を頭蓋内に留置したり、浅側頭動脈を直接吻合することはなくただ頭蓋内を通過させるように経路を変えたりする方法です。血管吻合の手技は必要ないので、技術的にはより簡単です。

 

間接バイパスを行っても10歳未満の小児例においては数か月後には血管が脳に向かって生えていきますので、長期的な経過についてはそん色ないという報告もあります。現時点で、必ずしもどちらがいいという結論は出ていないと思います。
成人の場合には、間接バイパスは無効とされています。症候性の場合には直接バイパスを行うことになります。

 

 

経過観察

 

手術を行わない場合には、半年ごとにMRI/MRA検査を行います。その間に症状が悪化してきた症例や、血管狭窄が進行してきた症例に関しては、脳血管造影やSPECTにより脳循環動態を評価して、手術を検討することになります。
手術後、発作が消失しない例もありますが、半年~1年の経過で発作が落ち着いていくこともあります。術後はしばらく経過を観察します。

 

血管吻合の手技をこなせる脳神経外科医は多いものですが、もやもや病の患者さんはある程度限局した施設に集まってくる傾向があります。近くの病院にいる主治医の腕を信じて治療を受けるのも悪くありませんが、不安があるようであれば、地域で多くの数をこなしている病院を探してみるのも良いでしょう。