脳の病気まるわかり

海綿状血管奇形(海綿状血管腫)

 

海綿状血管奇形とは

 

右前頭葉の海綿状血管腫

 

 

海綿状血管奇形は、異常に拡張した血管が密集して存在しているものです。

 

一般には、海綿状血管腫の方が名前の通りがいいかもしれません。血管腫と書き、腫瘍の“腫“が含まれますが、腫瘍的な性質(増殖)はありません。ただ、大きくなることはあります。全身のいろいろなところに出来ますが、脳の中にもできます。

 

脳に発生する場合、殆どが偶然できた単発(一ヶ所のみ)のものですが、多発性のこともありますし、家族性のこともあります。家族性の場合、多発するケースが多くなります。その他、脳腫瘍に対する放射線照射治療後に生じることもあります。

 

脳の内部のどこにでも発生しますが、大脳皮質下(表面に近いところ)、脳室の壁周辺、脳幹付近などに多いようです。

男女差はあまりなく、20~40歳代で発症するケースが多いようですが、小児例もしばしばあります(25%)。

 

 

症状について

 

海綿状血管腫には、無症状で偶然発見されるものと、そうでないもの(症候性)があります。症候性のものの場合、その症状は出血もしくはてんかん発作です。

 

無症候のものは、頭痛などといった、海綿状血管腫とは関係ない症状に対して行ったCTやMRIなどで偶然発見されるもの、もしくは脳ドックで発見されるものなどです。

 

出血発症のものは、出血を契機に麻痺失語などの症状を呈し、もしくは出血時に症候性のけいれん発作を起こして病院へ搬送されるようなケースです。どこの海綿状血管腫でも生じえます。得てして出血は小規模のものに留まることが多いので、症状が出るかどうかは、その血管腫が脳の機能的に重要な部分にあるのかどうかによるところが大きいのです。

例えば、運動野にあれば運動症状が出やすいですし、優位半球の側頭葉~頭頂葉では部位によっては失語や高次脳機能障害を呈することもあります。

 

また、脳幹に出来た海綿状血管腫は出血による症状を呈しやすいと言えます。脳幹は小さな脳組織ですが、その中に様々な機能に関わる部分が密集して存在しています。脳幹にある海綿状血管腫が出血すると、ものが二重に見える手足の半身麻痺めまい、ふらつき、感覚の障害、顔面の麻痺嚥下障害(飲み込みの障害)などが生じることがあります。

 

てんかん発作は、大脳の皮質に生じた海綿状血管腫の場合によくある症状です。小規模の出血を繰り返しているうちに、周辺の脳実質に影響が及んで生じるようになります。組織学的には、周辺の脳にグリオーシスと言う炎症の修復過程でみられる変化があったり、ヘモジデリンという血液中の赤血球に含まれる成分が染みついていたりします。こうしたことが原因となって発作が生じやすくなっていると理解されています。てんかん発作の原因となるケースは、側頭葉の前方部分~内側部分に発生したものに多いとされます。

 

 

診断について

 

最も有用な検査はMRI検査です。MRIでは、1cm以下の小さな海綿状血管腫も発見可能です。海綿状血管腫は、出血後でなければT2強調画像やFLAIR画像で辺縁が黒くその内部は白い部分と黒い部分が入り混じったような不均一な病変となるケースが多いです。MRIでは“ポップコーン様”、組織学的には“桑の実様”などと表現されることもあります。

 

ただ、ごく小さなものでは内部の状態は不明瞭で、小さな出血なのか、そこに海綿状血管腫が存在するのかの判断は難しくなります。そういう場合は、数か月の期間を置いてMRIを繰り返すのも方法のひとつかもしれません。

 

やや大きな出血を伴うものでは、血管腫の小さな本体の周囲に液体の貯留を示す均一に白くなった部位があるかもしれません。
T2*(T2スター)強調画像は、出血に対して鋭敏な画像であり、しばしば役に立ちます。造影検査は、小さな海綿状血管腫ではそれほど有用ではありませんが、大きなものでは少し増強されて白くなることがあります。

 

海綿状血管腫としばしば併存しているのが、静脈性血管腫(静脈性血管奇形)と呼ばれる、脳の中を走る異常に太い静脈です。これは、単独でも存在するもので、海綿状血管腫から心臓へ戻る血流に関わっています。

症候性の海綿状血管腫はCTで出血が明らかになるケースがあります。出血の場合はCTで白く映ります。ただ、CTではごく小さな海綿状血管腫はよくわかりません。通常よく見かける高血圧性の脳出血の起こりやすい部位(基底核・視床など)でなければ、海綿状血管腫の可能性も考えてMRI検査が必要です。

 

海綿状血管腫であることが既に分かっているケースについては、脳血管造影検査は不要です。ただ、出血したケースで動静脈奇形との鑑別が難しい場合や、静脈性血管腫が併存しているケースについては造影検査を行う意味があります。

 

右側頭葉の海綿状血管腫

 

脳幹の海綿状血管腫

 

 

治療方針について

 

偶然発見された無症状のものについては、治療の必要はありません。

 

治療を受ける場合には、手術(血管腫摘出)になります。

 

てんかん発作で発症したものであれば、まずは抗てんかん薬による治療を試みます。もし抗てんかん薬を2~3種類飲んでみても発作を繰り返すようであり、2年以上もコントロールが良くない状態が続くようなら手術を検討せざるをえません(参照:てんかんの手術)。

 

手術では、開頭手術を行い、海綿状血管腫を取り除きます。ここで重要なのは、きれいに海綿状血管腫のみを取り除くのではなく、周辺の脳をよく観察して、グリオーシスやヘモジデリンの沈着した脳をきちんと取ってしまうことです。

 

また、側頭葉の海綿状血管腫が海馬(側頭葉の内側にある、記憶に関わる組織)の近辺にある場合、海綿状血管腫の刺激が原因となって海馬が発作を起こすようになってしまっているケースもあります。この場合は、海馬まで摘出しないと発作が残ってしまいます。このような症例で海馬を摘出するのかどうかについては、とても難しい判断が求められます。

 

その他、小さな海綿状血管腫は存在するけど、発作の原因は全く別のところにあるケースも時々見かけます。海綿状血管腫があるからそれを摘出すれば発作が治ると思い込むと予想外のこともあり得ます。脳波を正しく読むことができる脳神経外科医を見つけてください。

 

海綿状血管腫のみを丁寧に剥離摘出して、病変は消失したけれども発作が止まっていないケースをよく見かけます。手術は病変を取り除く目的で行ったのではなく、発作を止める目的で行ったのですから、これでは手術失敗だと思います。こうならないためには、てんかん専門医の資格のある脳神経外科医に手術してもらうことも考えて下さい。

 

静脈性血管腫が併存する場合、これは正常の脳血管の還流にも関わっていますので、切断すると静脈性の脳梗塞を起こしてしまいますので、傷つけてはなりません。

 

出血発症の海綿状血管腫は、経過観察するのも選択肢の一つです。ただ、一度出血して症状を呈したケースは、出血を繰り返す頻度が格段に上昇します(無症候性0.3~0.6%/年に対して、症候性4.5~22.9%/年)。出血を繰り返すケースや、重大な症状を呈した海綿状血管腫については摘出を検討すべきと考えます。但し、症状を悪化させては意味がありませんので、摘出により大きな後遺症が残りやすいケースについては慎重に検討してください。

 

このようなケースは、大脳の一次運動野のほか、脳幹の海綿状血管腫が含まれます。特に、脳幹の海綿状血管腫は出血を繰り返しやすいのも特徴でですが、手術自体も大変難しいところです。以前は、“no man’s land(手の付けられない場所)”と呼ばれていました。手術手技の向上と経験により、脳幹にあってもアプローチ次第では無事に摘出できるケースがあることが分かってきました。但し、脳幹の海綿状血管腫なんて殆どの脳神経外科専門医は手術した経験がありません。もしこの病変の手術を行う場合には、外科医としての総合力が問われるところであります。

 

その他、ガンマナイフや陽子線による定位放射線治療も出血のリスクを下げると報告されていますが、放射線壊死などの副作用がしばしば生じ問題となるため、手術摘出を優先して検討すべきと考えられています。

 

 

予後は

 

海綿状血管腫は、出血と血栓化を繰り返します。しかし1回の出血は限局的な小出血が殆どですから、致命的な出血になることは少ないようです。