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– 機械的血栓回収療法 –

 

機械的血栓回収療法とは

 

 

この方法は比較的太い脳内の血管が血栓によって閉塞している時に、そこにカテーテルを入れて、血栓自体をそのまま取り除こう、というものです。

 

血栓溶解療法(t-PA静注療法)には、それまでにない画期的な効果がありました。多くの患者さんで、以前では想像がつかないほどの症状の劇的な改善が認められ、現在では標準的な治療として広く行われているものです。その一方で、t-PAはその適応が発症から4.5時間以内に限られているなど、条件を満たさずに使えない患者さんも多数いらっしゃいます。また、t-PAを使用できたとしても無効のケースは少なくありません(再開通率:30-40%)。

 

t-PA無効例は、特に脳の大血管に多いようです。アメリカの有名な医学誌に掲載されているデータですが、t-PAによる治療後24時間以内の再開通率は、内頸動脈では14%という低率で、中大脳動脈でも55%に留まっていました。つまり、こうした太い動脈が詰まることが、最も深刻な影響を与えるにも関わらず、こうした病変に対するt-PAの効果はそれほど高いものではないのです。

 

そこで、t-PA静注療法が無効の患者さん、もしくはt-PA適応外の患者さんに対して、カテーテルを用いた治療法が開発されました。

 

血栓回収用デバイスを用いて行う「機械的血栓回収療法」は、脳アンギオ検査を応用した血管内治療の一つで、とくに脳の太い血管(内頸動脈、中大脳動脈、椎骨・脳底動脈)に詰まった大きな血栓を除去するのに有効です。比較的新しい治療法で、本邦では2010年に認可されました。脳梗塞の原因となっている血管の血栓を溶かすのではなく、血栓を吸い取ったり絡め捕ったりして取り除く治療法です。発症から8時間以内に限定して使用することが認められています。但し、CTやMRIという脳の検査で、脳梗塞がすでに進行してしまっている場合には使用できません。

 

 

国内で認可されている血栓回収用機器

 

 

現在、国内では4つの血栓回収用機器が認可されています。これらのシステムを使用する施設・術者は認可制になっていますので、実施できる施設は限られていますし、同一施設内でも行う医師は限定されます。

 

国内で最初に実用化されたのは「Merci retriever、メルシーリトリーバーシステム(Stryker社)」です。アメリカでは2004年に初めて承認され、本邦では2010年に認可を受けました。メルシーの先端はらせん状の柔らかいワイヤーになっています。先端を脳の血管の詰まった部位の先まで挿入して、血栓をからめとって回収します。メルシーによる血管の再開通率は70-80%と報告されています。しかし血栓回収中に血管を損傷して、脳出血を生じることもあり、その治療は決して安易なものではありません。最近では新しい血栓回収デバイスの登場により、メルシーはあまり使われなくなってしまいました。

 

Merci retrieverの動画(外部サイトです)
→ https://www.youtube.com/watch?v=MGX7deuFkhc

 

2007年には「Penumbra system、ペナンブラ(Penumbra社、国内販売はメディコス・ヒラタ社)」と呼ばれる、血栓を吸引して回収する方法がアメリカで承認されました。本邦でも、2011年に認可を受けました。これまでの2種が、血栓回収療法のデバイスの第一世代と呼ばれます。ペナンブラは、血栓を砕きながら掃除機のような強力ポンプで血栓を吸引して回収するシステムです。再開通率は80-90%と報告されています。

 

Penumbra systemの動画(外部サイトです)
→ https://www.youtube.com/watch?v=SHDDD8Vs8fE

→ https://www.youtube.com/watch?v=lyfzNgrVOOk

 

アメリカで2012年に承認されたのが第二世代にあたるもので、ステント型血栓回収デバイス、「Solitaire FR、ソリティア(Covidien社)」と「Trevo Provue、トレボ (Stryker社)」です。本邦では、2014年に認可されました。これらのデバイスはどちらもステント型(筒型)の血栓回収装置です。血管の中にステントという、金属を網目状にして作った筒を入れ、血栓の部分を通過させてからステントを拡張させます。ステントを拡張させることにより血栓に押し付け、血栓をステントの網目に絡めるようにして取り除くものです。その際、ガイディングカテーテルのバルーン(風船)を膨らませて血流を遮断した状態にしておきます。そして陰圧をかけながら、血栓を取り除く操作を、うまくいくまで行います。どちらも再開通率は90%程度と、第一世代の器具と比べて成功率は高く、また安全性も高いことが報告されています。

 

Solitaire FRの動画(外部サイトです)
→ https://www.youtube.com/watch?v=zlQ0E29rB3k

 

Trevo Provueの動画(外部サイトです)
→ https://www.youtube.com/watch?v=KnJHNNNV0dA
→ https://www.youtube.com/watch?v=PxcERzyI67I

 

機械的血栓回収療法では、より早期に完全な再開通が得られるほど良好な神経症状の改善が期待できます。なお、カテーテルが通過する血管の動脈硬化が高度な場合、カテーテルが閉塞部位まで到達できずに、断念せざるを得ないこともあります。また、血栓の性状によっては再開通できずに終了せざるを得ない場合もあります。高齢の患者さん、術前の神経学的重症度が高い患者さん、内頸動脈などより心臓に近い部位で閉塞している患者さんほど結果が不良となる傾向があるようです。

 

 

Drip and Ship

 

 

上述のように、機械的血栓回収療法は限られた施設でしか行われていないのが現状です。一方、脳梗塞の患者さんは高齢者に多いので、大病院の少ない田舎だったりするわけです。“time is brain”という慣用句があります。脳卒中の治療は時間との勝負です。機械的血栓回収療法も、8時間以内であれば受けるチャンスがあります。

 

そこで、より多くの患者さんがこの治療を受けられるように行うのが、drip(点滴) and ship(搬送)です。dripは、t-PAの点滴のことです。shipは、病院から病院への救急車による転院搬送を意味しています。つまり、発症して間もない患者さんに対して直ちにt-PAの投与を開始し、そのまま機械的血栓回収療法を行うことが可能な病院へ転送します。

 

そのためには、脳卒中に関わる一般の内科医や救急医もこの治療の存在を認識すべきであり、普及を目指した啓蒙活動が重要なわけです。

 

 

 

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