脳の病気まるわかり

頭蓋内動脈解離

動脈解離について

 

脳の動脈の壁は、内側から内膜、内弾性板、中膜、外膜という構成になっています。とりわけ内弾性板は強固な組織で、600mmHgの血圧にも耐えうるという報告がある一方、内膜はもともととても薄い膜です。しかし、内膜も高血圧などが持続していると徐々に肥厚して厚くなります。動脈解離は、内弾性板が急激かつ広範囲に裂けてしまい、血管の壁の中にスペースができて、血流が入り込んでしまった状態です。内弾性板は強固な組織ですが、加齢やそれに伴い長期間強い血圧の負荷を受けることにより次第に脆弱になり、断裂しやすくなってしまうと考えられています。

40〜50代の中年男性に多く見られます。明らかな原因は不明のことも多いですが、高血圧の方に多く、また外傷、首の過度の運動、スポーツ活動後、経口避妊薬のほか、一部の特殊な血管の病気(線維筋異形成症、Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群など)でも生じます。

 

脳の動脈解離は椎骨動脈に多く発生します。

 

一方、内頚動脈が脳内に入ってすぐのところには、時折blister like aneurysm(血豆状動脈瘤)と呼ばれる小さな動脈瘤ができることがありますが、これらにおいても解離性の機序が推測されています。

 

 

病態は

 

前述の血管壁のうち、一番内側にある「内弾性板」が裂けて血流が血管の壁の中に入り込むようになってしまいます。本来の血管の内腔を「真腔」と呼ぶのに対し、この裂けてできたスペースを「偽腔」と呼びます。

 

このように血管の壁が裂けた場合、そのスペースが拡大して血管自体が膨らむと、「解離性脳動脈瘤」と呼びます。一方、血管の真腔が潰されてしまい、血流が不十分になったり途絶えたりすることがあります。

 

断裂した内弾性板そのものは再生せず、内膜の新生によって概ね1〜2ヶ月のうちに組織の修復が完成されると考えられています。

 

このようなことが生じる原因としては、血管に対する負荷のほか、首の伸展などの動作による影響などが考えられています。

 

 

症状は

 

多くの場合、ある日突然、左右どちらかの後頭部痛が起こります。中年男性が最近急に始まった強い後頭部痛を訴えて受診した場合には、この病気を疑います。後頭部痛は、血管が裂けたことによる痛みだと考えらえます。

 

血管が裂けて出血するものと、血流が悪くなって脳梗塞を生じるものとがあります。出血すると、くも膜下出血になり、強い頭痛意識障害を生じます。

 

一方、血管が狭窄もしくは閉塞して血流不全を生じると、脳梗塞になります。血流不全を生じると、その末梢血管の血流障害が生じるわけですが、椎骨動脈の場合の末梢血管は、椎骨動脈から出る主な枝である後下小脳動脈と、椎骨動脈の先で左右の椎骨動脈が合流して形成される脳底動脈になります。脳底動脈は左右の椎骨動脈からの血流を受けるので、片方の血管が閉塞しても、反対側の血流が維持できている限り脳梗塞になる可能性は低いです(反対側からの血流が乏しい場合はその限りではありません)。一方、椎骨動脈の枝である後下小脳動脈の血流が足りなくなると、脳の延髄・小脳に脳梗塞ができます。しばしば、ふらつき、回転性めまい吐き気片側の顔の痺れ反対側の体の感覚障害(温度・痛み)、嚥下障害などを伴い、Wallenberg(ワレンベルグ)症候群と呼ばれています。その他、椎骨動脈からは脳の延髄や脊髄に向かってごく細い血管が出ていることもあります。

 

くも膜下出血や脳梗塞は、後頭部の痛みが始まってから数日以内に多いとされています。報告によると、脳梗塞で発症する方よりも、くも膜下出血で発症する方のほうが2倍程度多いようです。

 

画像所見

 

左椎骨動脈が、黄矢印のところで極めて細くなり、その直後に異常に拡張している(白矢印)

 

MRIによる血管撮影”MRA”検査では動脈の形の急激な変化が認められます。典型的には、突然極めて細くなったり、逆に異常に拡張したりします。string sign(細くなる)や、pearl and string sign(拡張し、その後細くなる)が有名です。動脈の外周の大きさや、血管の真空と偽腔を把握することも重要です。外周のサイズ確認のためにはbasiparallel anatomic scanning(BPAS)画像なども用いられます。

 

造影剤を使用したCT血管造影(3D-CTA)も有用ですが、内腔の詳細把握のためにはMRIの方がより有用です。

 

治療方針の決定のためには脳血管造影検査が有用です。

 

  • 解離で指摘される動脈内腔の狭小化は、元から動脈が細かった場合と区別が難しいため、basiparallel anatomic scanning(BPAS)を撮像し、血管の外径を評価することで偽腔の存在を診断することも有用です。

 

経過

 

くも膜下出血で発症するものは、急性期に再出血しやすいとされ、特に24時間以内に再出血することが多いので、早期に治療を開始することが重要です。再出血の危険性は徐々に下がり、1ヶ月を過ぎてからの再出血率は10%以下になり、2ヶ月を越えると再出血の心配がほぼなくなります。

 

過半数では後遺症はないかあっても軽度ですが、後遺症が残る方も少なくなく、また1〜2割では死亡するともいわれています。

 

 

治療

 

解離のみの患者さんでは経過観察、血圧コントロールが主な治療の柱になります。

 

脳梗塞で発症した患者さんに対しては、経過観察に加えて脳梗塞に対する治療を行います。

 

出血発症の解離性脳動脈瘤に対しては、再出血を予防することが治療の肝です。血管自体が大きく膨らんでいるので、通常の嚢状動脈瘤のように、動脈瘤の頚部(入り口)にクリップをかけたり内部にコイルを入れたりして、動脈瘤のみを潰して母血管を温存するような治療はできません。動脈瘤の部分の血流を減らして(もしくは無くして)、再破裂を予防することになります。

 

母血管閉塞の方法として、開頭して血管の破裂した部分より手前側にクリップをかける方法と、カテーテルを挿入して専用のコイルにより血管そのものを詰める方法とがあります。後者の方がシンプルで余計なリスクを伴わないので、カテーテルが用いられるケースが増えつつあります。

 

母血管を閉塞する際に、気をつけなければならないことがあります。それは、母血管から出ている重要な側枝血管を温存することです。動脈解離は、殊に椎骨動脈に起こりやすい病態です。左右の椎骨動脈は、頭蓋内に入って合流して脳底動脈という一つの血管になりますが、通常はその手前で後下小脳動脈という枝を出します。この血管が閉塞して血流障害を起こすと、脳の延髄に脳梗塞を起こして、Wallenberg症候群という症状が出てしまいます。そこで、後下小脳動脈の温存を目的としてバイパス血管を作る手術を併用することもあります(この手術は比較的特殊なもので、たくさん経験している医師は多くありません)。一方、最近では血管の内腔にステントというメッシュ状の筒を挿入し、内腔を確保してから周囲の血管壁にコイルを挿入する方法も取り入れられつつあり、こうした方法が主流になっていくかもしれません。

 

 

偶然発見された解離性脳動脈瘤について

 

脳ドックや、何らかの軽い症状を契機に受けた脳血管の検査で、椎骨動脈の解離性脳動脈瘤が偶然発見されることがあります。こうした場合に、解離が生じたのがずいぶん昔(少なくとも2ヶ月以上は経過した状態)であることを証明することができれば、それ程心配はないと思われます。ただ、こうした証明は必ずしも容易ではありません。ごく最近発生したものである可能性を否定できない場合には、慎重に経過観察するもしくは治療を行うことも選択肢として挙げられるかもしれません。