脳の病気まるわかり

– 神経鞘腫 –

 

神経鞘腫について

 

神経鞘腫は、脳から出て体の諸臓器に向かって伸びる末梢神経に発生する腫瘍です。脳実質外腫瘍になります。

 

鞘は、“さや”と呼びますが、神経鞘は神経を包んでいる文字通り“さや”です。この、神経鞘から発生する腫瘍を、神経鞘腫と呼びます。

 

殆どの場合、良性腫瘍です。頭蓋内に発生することが多く、その場合には脳実質外腫瘍に分類されます。つまり、脳の外から発生して、脳を圧迫したり、近傍の末梢神経を巻き込んだりして症候性(症状を出す)になります。

 

増大するスピードは腫瘍により異なりますが、平均すると年に1-2mm程度のペースで増大するとされます。中には、数年以上大きさが変わらない場合もあります。良性腫瘍ではありますが、余りにも大きくなると生命の危険性があります。あくまで参考値ですが、5cm程度になると脳幹が歪んで危ない状況になる可能性が高まります。

 

 

原因は

 

原因はよくわかっていません。

 

ただ、神経線維腫症II型の方では聴神経などの末梢神経に神経鞘腫が多発することが分かっています。神経線維腫症II型の原因は遺伝子異常で、第22番目の染色体(22q)にあるNF2という遺伝子の変異です。merlinという蛋白が正常に働かなくなって発症します。

 

 

好発部位は

 

最も多いのは、聴神経に発生するケースです。他に、三叉神経や舌咽・迷走・副神経(この3つの神経は同じ孔に入るため、区別できないこともしばしばあります)にもしばしば認めます。脊髄の末梢神経にも発生します。稀ではありますが、舌下神経や動眼神経・顔面神経にも見られます。
ほとんどは、頭蓋内や脊柱管の中に発生します。

 

 

症状は

 

発生する神経の神経障害と、増大した腫瘍によって圧迫を受けた神経の障害、そして圧迫を受けた脳の症状が出現します。

 

神経鞘腫で最も多い聴神経腫瘍の場合、多くは腫瘍のある側の難聴で発症します。しばしば、突然の難聴で発症し、めまいを伴うこともあることから、突発性難聴という耳鼻科の病気との鑑別が重要になります。めまいは一過性のことが多いですが、難聴は進行の一途を辿ります。腫瘍が発見されたときには高度の難聴になっているということもしばしばです。

 

その他、聴神経と並行して走行する顔面神経の障害として同じ側の顔面の軽い歪みはしばしば認められます。

 

腫瘍が大きくなると、近傍の神経と接して圧迫するようになります。低頻度ではありますが、同じ側の顔面の感覚障害飲み込みの障害ものが二重に見えるなどの症状もありえます。

 

小脳を圧迫するようになると、ふらつきがでます。また、腫瘍の存在に伴い交通性水頭症を起こしたり、脳を圧迫することで閉塞性水頭症を起こしたりします。

 

三叉神経鞘腫の場合、顔面の感覚低下(三叉神経障害)のほか、顔面の痛みものが二重に見えるふらつき聴力障害頭痛などがみられます。

 

舌咽・迷走・副神経はいずれも頚静脈孔というあなから頭蓋骨の外へ出ます。この3本の神経から出た腫瘍を頚静脈孔腫瘍と呼びます。これらの脳神経から発生した神経鞘腫では嚥下の障害や発声の障害のほか、聴力障害を伴うことが多いとされます。聴神経はデリケートな神経です。腫瘍が大きくなって聴神経に接するようになって最初の症状として現れることが多いのです。

 

顔面神経鞘腫は稀な腫瘍ですが、神経鞘腫が疑われた場合、強い顔面の麻痺を伴っていたら顔面神経鞘腫を疑うべきでしょう。聴力障害や耳鳴りも伴います。

 

舌下神経鞘腫も稀な腫瘍です。舌下神経の麻痺による舌の動きの障害は、診断的価値が高い症状だとされてます。

 

 

検査

 

最も重要な検査は造影時を使用したMRI検査です。MRIで診断はほぼつきますし、どの神経から出たのかの推測にも有用です。他の脳神経や血管との関係や、手術に関係する重要な血管の走行などを把握するためには必須の検査です。

 

他に、術前検査としては造影CT、耳鼻科で聴力や味覚の検査などを行います。CTによる骨の状態の観察は、腫瘍が神経鞘腫なのか髄膜腫など他の腫瘍なのかの判断に有用です。

 

 

治療方法

 

治療の柱は、経過観察、手術、放射線(ガンマナイフ)の3つです。

 

経過観察 (wait & scan)

 

無症候性の小さな腫瘍(1cm程度まで)であれば、まずは経過観察を行ってもいいと思います。増大傾向のある腫瘍なら治療を検討したほうがいいかもしれません。ただ、明らかに増大しない場合でも聴力が低下することはあります。

 

経過観察を行う場合、最初の1~2年は半年ごと、その後は1年ごとに経過観察するのがいいかもしれません。

 

積極的治療(手術とガンマナイフ)

 

腫瘍が1.5cm程度、もしくはそれ以上あるとき、また小さくても増大が明らかな場合などは、積極的な治療を検討したほうがいいかもしれません。それ程大きくない腫瘍(2.5~3cm未満)の場合、残存している聴力や顔面の動きに関わる神経の温存が焦点になります。

 

手術とガンマナイフの両者が選択肢になりますが、両者は治療のゴールが異なります。手術の目標は腫瘍の全摘出になる一方、ガンマナイフの目標は腫瘍の増大抑制にあります。

 

ガンマナイフ

 

腫瘍のみに集中して強い放射線を一度に当てる治療法です。ガンマナイフのよい対象は、2.5~3cm未満の腫瘍になります。3㎝を超えると腫瘍の増大抑制効果は低下します。ガンマナイフでは、腫瘍は消失しませんが、90%近い症例では腫瘍の増大を抑えられるとされます。

 

ガンマナイフのデメリットがないわけではありません。約半分の症例で、腫瘍はガンマナイフ治療後に一過性に増大します。
顔面神経の麻痺は2%程度のようですが、聴力は50%程度で悪化し、さらに長期的には更に高くなる可能性を示すデータがあります。

 

その他、稀なことではありますが、腫瘍が悪性化する可能性が高まるという報告があります。

 

ガンマナイフ照射後に手術が必要になる場合、腫瘍が固くなり取りづらくなるようなので、十分に検討するべきと言えます。

 

手術

 

聴神経腫瘍の手術は、耳の後ろの頭蓋骨を開頭して、腫瘍を摘出するものです(他のアプローチもあります)。

 

3㎝以下の腫瘍の場合、ガンマナイフのほかの治療選択肢として、開頭手術という方法もあります。ガンマナイフが腫瘍の増大抑制を目標としているのに対し、開頭手術では腫瘍の全摘出を目指します。どちらを選ぶのかについては、①腫瘍の全摘出を目指せる状態か、②顔面神経、聴神経の温存率はどうか、という2点が主なポイントです。経験の多い術者(50例以上)の場合、顔面神経の温存率は95%を超えます。聴力の温存率もこのサイズでは50%程度期待できます。

 

腫瘍が3㎝もしくはそれ以上ある場合には、選択肢は手術のみになります。聴力が保たれている症例ではなるべく聴力の温存を心がけますが、このサイズになると聴力温存率が低下します。顔面神経の温存を第一に心がけつつも全摘出を狙い、全摘出できなかった場合には残存腫瘍にガンマナイフを照射することが良いと思われます。

 

開頭手術の危険性として上記のもののほかに、接している神経の障害(嚥下障害、ものが二重に見える、顔面の感覚障害など)、皮下への髄液漏れなどがあり、以下のものは頻度は低いですが、術後の腫瘍からの出血、動脈(椎骨動脈)閉塞による脳梗塞(ふらつき、嚥下障害、意識障害など)、静脈(静脈洞)閉塞による静脈うっ滞(頭痛、意識障害など)、肺塞栓、創部感染症などが起こるかもしれません。

 

 

聴神経腫瘍以外に関しても、経過観察、ガンマナイフ、手術に対する基本的な考え方は同じになります。ただ、手術の場合は腫瘍の場所が異なるので、手術の方法も異なります。

 

聴神経腫瘍の次に多い三叉神経鞘腫は深いところにあるという点では手術が容易ではありません。可能性の高い危険性としては、顔面の感覚障害のほか、ものが二重に見えるという症状でしょう。アプローチの方法次第では、聴力障害や顔面の麻痺もあり得ます。

 

頚静脈孔腫瘍の場合、最も出現しやすい危険性は嚥下の障害、声が嗄れるという症状です。左右の一側のみの障害であれば反対側の機能により代償することも可能ですが、高齢者では代償機構が弱っていますので、嚥下困難な状態になる可能性もあります。

 

 

予後は

 

基本的に良性腫瘍です。手術とガンマナイフを利用してうまく治療できれば、長期に再発することなく過ごすことが可能と言えるでしょう。

 

 

 

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