脳の病気まるわかり

– 胚細胞腫瘍 –

 

胚細胞腫瘍について

 

胚細胞腫瘍は原発性脳腫瘍の3%弱と、比較的稀な腫瘍です。ただ、小児期~青年期に好発する腫瘍であり、小児脳腫瘍の中では15%を占め、少なくありません。発症のピークは10歳代にあります。男性に多く、男女比は4:1です。

脳下垂体と松果体に多い腫瘍で、松果体が約50%、脳下垂体が20%、その他基底核にも見られます。

 

脳下垂体のジャーミノーマ

 

松果体のジャーミノーマ

 

基底核のジャーミノーマ

 

原始生殖細胞を起源とする腫瘍と考えられています。ジャーミノーマ(germinoma)、奇形腫(teratoma)、卵黄嚢腫瘍(yolk sac tumor)、絨毛がん(choriocarcinoma)、胎児性がん(embryonal carccinoma)の5種類があります。奇形腫には正常組織に近い細胞からなる成熟奇形腫と、未熟な奇形腫や悪性変化を伴う奇形腫があります。また、これら5種類のうちいくつかの成分が混合した腫瘍(混合性腫瘍)もあります。

 

腫瘍の種類によって経過や、放射線照射や化学療法に対する感受性が異なります。高頻度なのはジャーミノーマです。ジャーミノーマや成熟奇形腫は予後良好群とされます。卵黄嚢腫瘍、絨毛がん、胎児性がん、そして混合性腫瘍のうちこれらを主体としたものは予後不良群とされますが、かなり稀です。なお、未熟な奇形腫や悪性変化を伴う奇形腫、そして混合性腫瘍のうちジャーミノーマを主体としたものは、中間群とされます。

 

 

症状は

 

症状は、腫瘍が出来た部位により異なります。神経下垂体部周辺に出来た場合の初発症状として最も多いのが尿崩症で、次いで下垂体前葉機能障害(下垂体ホルモンの分泌障害)、視力視野障害(視力低下・視野欠損)です。

 

尿崩症とは、尿が大量に出るもので、トイレに頻回に行くようになり、そのたびに大量の尿が出ます。尿崩症になると、体の水分が足りなくなるので、喉が渇きます。大量の飲水を行うようになります。このように脳に原因があって尿崩症になる場合を、中枢性尿崩症と呼びます。

 

松果体部に発生した場合には、松果体のすぐ傍にある中脳が圧迫されるために症状が出ます。上方注視麻痺(目が上を向くことが出来ない)・複視(ものが2重に見える)や、中脳水道が圧迫されて閉塞することに伴う閉塞性水頭症(頭痛、おう吐)です。

 

基底核に発生した場合には、片麻痺で発症することが最も多いです。

 

 

診断は

 

診断に重要な検査は、MRIを初めとする画像検査と血液検査です。

 

 

血液検査

 

血液検査では、血液中のα-fetoprotein(アルファフェトプロテイン、AFP)やhuman chorionic gonadotropin(人絨毛性ゴナドトロピン、HCG)、placental alkaline phosphatase(PLAP)などが高値となります。これらは、腫瘍の種類により高値となるものが異なります。AFPは卵黄嚢腫瘍で非常に高値(>2,000 ng/mL)となり、HCGは絨毛がんで非常に高値(>2,000 mIU/mL)となります。それ以下では、ジャーミノーマに準じて治療します。

 

HCGが高値であれば、男児の2次性徴を早めますが、生殖能力は早まりません。

 

また、下垂体ホルモン検査を行い、下垂体機能を調べておく必要があります。

 

尿崩症があるかどかは、一日の尿量をチェックしたり、尿の比重を調べたりすると分かります。

 

 

画像診断

 

画像診断で最も重要なのは造影MRIです。MRIで造影剤で白くなる病変を下垂体部に認めた場合、年齢や血液データ、症状(尿崩症)などを考慮して胚細胞腫瘍を疑います。松果体部に発生した場合には、主に胚細胞腫瘍もしくは松果体腫瘍(松果体細胞が腫瘍化したもの)が考えられます。

 

CTは重要です。胚細胞腫瘍はしばしば石灰化(カルシウムの塊で、骨のような成分)が認められます。造影剤を使わない単純CTで真っ白く映ります。但し、CTを含む放射線検査を何度も繰り返すと、放射線の影響で腫瘍が縮小することが報告されています。一見、良いことのようにも見えますが、その後の診断や治療効果の判定にも影響するので、放射線による検査は必要最小限に留める必要があります。

 

なお、胚細胞腫瘍の場合、松果体部と脳下垂体部の両方に同時に発生することが10%程度あるとされます。

 

もし、脳の他の部位の表面に小さな腫瘍が複数認められるなら、それは腫瘍の一部が発生部位から流れて行ったもの(播種)かもしれません。

 

 

生検

 

最終的な診断は、腫瘍生検になります。上記の諸検査で胚細胞腫瘍であることがほぼ濃厚な場合を除いて、組織診断が必要になります。脳下垂体部にせよ、松果体部にせよ、脳室に接して腫瘍が存在している場合には、神経内視鏡手術による腫瘍生検で組織を採取することが最も低侵襲であり、適しています。

 

この際に、水頭症を合併している場合には第三脳室底開窓術という手術により閉塞性水頭症の治療を行います。第三脳室提開窓術が出来ない場合には、必要に応じて脳室貯留槽(オンマイヤリザーバー)を挿入したり、脳室外ドレナージ(脳室から外界に向かってカテーテルを挿入し、脳脊髄液を外に出す)を行ったりします。

 

腫瘍が脳室と接していない場合、定位脳手術、経蝶形骨洞手術もしくは開頭手術になりますが、定位手術や経蝶形骨洞手術は適応範囲が限られます。定位手術は基底核などには適していると言えます。

 

 

治療

 

ジャーミノーマの治療の柱は、放射線照射と化学療法(抗がん剤による治療)です。手術による治療は飽くまでも限定的に使用されます。

 

最も効果のある治療は、放射線照射です。放射線照射は、全脳室系、もしくは全脳照射、全脳+全脊髄照射です。局所照射は成績が良くないというデータがあります。そのため、発生した部位の局所に限局していて、播種がないのであれば全脳室系もしくは全脳照射(基底核など、脳室外腫瘍)を選択します。もし、脊髄に播種性病変があれば全脊髄も含めて照射することを選択肢として考えます。放射線の照射量としては通常、24~30グレイ未満です。他の悪性腫瘍の場合には最大で60グレイ程度まで照射しますので、比較的少ない量と言えます。

 

化学療法もとても有効です。主な治療方法は、carboplatin(カルボプラチン)とetoposide(エトポシド)を併用した治療です(CARE療法、ケア療法と呼びます)。Cisplatin(シスプラチン)とetoposide(エトポシド)が用いられることもあります。低悪性度群および中間群に対する初期治療に用います。但し、化学療法単独では腫瘍の縮小効果は得られますが、腫瘍の再発の制御には放射線治療が必要であり、化学療法単独では不十分だと考えられています。

 

その他、イフォスファミド、シスプラチン、エトポシドを用いた方法(ICE療法、アイス療法)もあります。本邦で通常行われる治療としては、ICE療法が最も強力な治療方法です。高悪性度群に対する初期治療として用います。中間群で用いられることもあるかもしれません。

 

化学療法は、一通りの治療を通常は3コース行います。そして、それが終了したのちに放射線治療を行います。通常は、全脳室照射です。

 

なお、化学療法3コース+放射線治療を終了した時点で残存病変を認めた場合、可能であれば腫瘍の摘出を行い、組織の再確認をします。更に、腫瘍の残存がある場合には、いずれの悪性度群に対してもICE療法の追加を検討します。

 

成熟奇形腫に対する治療は手術です。成熟奇形腫は、人体に含まれる皮膚や髪の毛、骨、筋肉、脂肪、神経などの組織が混在している腫瘍です。成熟奇形腫であっても他の成分が混じっていることがありますので、放射線や化学療法を行うこともしばしばありますが、もし成熟奇形腫の成分が残ったら、それは摘出せねばなりません。ただし、手術による完全摘出は困難な場合もあります。手術が困難であると判断されたり、手術後の残存腫瘍などには、化学療法、放射線照射などが選択肢としてありますが、まずは慎重に経過観察を行う方がよいかもしれません。

 

未熟奇形腫であれば、放射線治療もしくはそれに化学療法を組み合わせた治療を加えます。

 

卵黄嚢腫瘍や絨毛癌、胎児性腫瘍は、MRIと血液検査で診断がついた場合には、生検を経ずに直ちに放射線化学療法を開始することが望ましいと思われます。ICE療法や、最近では大量化学療法に自家末梢血幹細胞移植(PBSCT)を併用する治療が行われます。残存腫瘍に対して、状況次第では手術による摘出も選択肢として考えられると思います。

 

 

CARE療法の概略

 

開始日にカルボプラチン(抗がん剤)を、また開始日から3日間連続でエトポシド(抗がん剤)を点滴します。適宜、吐き気止めを用います。3日間の点滴が終了すれば定期的に血液検査(採血)を行います。また、次のサイクルが始まる前にはMRIを行います。1サイクルは28日で、28日ごとにこれを繰り返します。

 

主な副作用は、おう吐、消化器症状、骨髄抑制、脱毛、肝腎障害、手足のしびれ、肺線維症などです。

 

 

ICE療法の概略

 

開始日から5日間連続で抗がん剤(イフォスマイド、シスプラチン、エトポシド)を点滴します。その間、持続的に大量の点滴が入ります。点滴は、抗がん剤終了後も4日程度継続します。1サイクルは基本的に6週(~12週)です。5日間の点滴が終了すれば定期的に血液検査(採血)を行います。また、次のサイクルが始まる前にはMRIを行います。

 

副作用として、吐き気、おう吐、食欲不振、脱毛、出血性膀胱炎(血尿)、腎機能障害、骨髄抑制(貧血)、聴力低下などがあります。吐き気に対して抗がん剤対策に用いられる制吐剤を用います。血尿予防で膀胱粘膜の保護剤を用います。骨髄抑制が生じたら、白血球を増やす作用のある薬(G-CSF製剤)を皮下注射します。

 

 

予後について

 

通常、1回目の化学療法後には腫瘍の縮小が得られます。ジャーミノーマや、予後良好群のものでは9割以上の治癒率が望めます。中間群でも90%程度ありますが、予後不良群では60%程度になるという報告があります。残念ながら、純粋なタイプの卵黄嚢腫瘍や絨毛癌は極めて悪性の腫瘍であり、1年以内の死亡率もかなり高くなってしまします。
再発すれば、ICE療法を行い、可能であれば放射線の追加照射を行います。

 

 

胚細胞腫瘍の治療を受けるには

 

胚細胞腫瘍は比較的稀な腫瘍です。更に、胚細胞腫瘍に用いる抗がん剤治療方法は、脳神経外科領域で取り扱う抗がん剤治療としてはとても複雑であり、正しい知識と経験が求められます。一部の特殊な腫瘍を除き、高度な手術手技は不要です。その治療は原則として悪性腫瘍の専門医(がん治療専門医)のいる大学病院やがんセンターなどに限られるべきだと思います。

 

胚細胞腫瘍の患者さんの多くは、治療次第で長期に再発なく生存できる可能性が高いので、正しい治療をしてもらえる施設を紹介してもらってください。

 

 

 

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