脳の病気まるわかり

片側顔面けいれん

 

片側顔面痙攣とは

 

 

顔面の筋肉が、本人が意図していないにも関わらず勝手にピクピクと動く病気があります。

 

こうした病気の中の代表的なもの、そして脳神経外科でしばしば取り扱われる(つまり外科治療が有効)なものに、片側顔面けいれんと呼ばれる病態があります。

 

 

症状の特徴

 

 

片側顔面けいれんは、病名の通り、顔面のうち右か左の、つまり片方だけのけいれんを最大の特徴とします。

 

典型的には、片方の目の周囲の筋肉が時折ピクつくようになり、それが次第に(数か月~数年の経過で)口の周りやおでこのあたりまで広がるようになります。ひどい時は、首の表面の筋肉にまで広がることもあります。

 

ピクつきは、軽い方では何かの折に時々なったりしますが、重度の方ではピクつきが常態化し、断続的に続くようになります。また、目が閉じて開けられないような感じになってしまう方もいらっしゃいます。

 

このピクつきは、緊張しているときや人前で話しているときに増強する傾向があるので、接客業や営業の方、教壇に立ったり講演をされたりするような方には特に困ったことになります。その他、疲労、ストレス、不安、心配などでも悪化します。

 

ピクつきが常態化すると、軽い顔面麻痺を伴うこともあります。

 

非典型的には、口の周りや頬の筋肉からピクつきが始まり、顔全体に広がります。このようなパターンの方は1割未満です。

 

患者さんの多くは40代~50代以降の方で、女性に多い傾向があります。一方、より若い方でも時折見受けられます。左の方がなりやすいようです。

 

症状は、一時的には自然に緩解することもありますが、完全に消失することは滅多にないようで、いずれ再発し、増悪することが多いとされます。

 

 

原因は

 

 

典型的な片側顔面けいれんの場合、その原因は顔面神経に太い血管が接して圧迫することにあります。

 

顔面神経とは、顔面の表情筋と呼ばれる筋肉を動かす神経で、主に目や口の周囲の筋肉(眼輪筋・口輪筋)や、ひたい、頚部表面の筋肉の収縮に関与しています。その他、味覚などにも関わっています。脳幹から出て頭蓋内を走行した後、内耳孔という頭蓋骨の穴に入り、側頭骨と呼ばれる頭蓋骨の中を暫く走行してから頭蓋骨の外に出て、顔面の各筋肉に到達します。

 

この顔面神経がどこで血管と接触するのかというと、それは頭蓋内で脳幹を出た直後です。この部分では顔面神経も血管(動脈や静脈)も脳脊髄液の中に浮いた状態になっていますので、比較的フリーになっています。神経はピンと張り詰めていますので動きようもないですが、血管は蛇行して走行していて、それが動脈硬化などで更に蛇行が強くなったりします。加齢とともに蛇行が強くなった動脈が顔面神経に接触するようになって更に強く圧迫すると、顔面神経が動脈の拍動に刺激されて、勝手に動くようになるのです。

 

接触する血管は椎骨動脈や脳底動脈から出た太い枝で、通常は前下小脳動脈、もしくは後下小脳動脈の本管です。

 

こうした動脈が接触する顔面神経の部位は、どこでもいいわけではありません。通常、顔面神経が脳幹から出た直後の部分です。ここを、root exit zone (REZ)と呼びます。

 

非常にまれではありますが、動脈以外にも血管奇形(動静脈奇形、静脈性血管腫)、静脈、脂肪腫、その他の腫瘍などが顔面神経に接触していたケースも報告されています。

 

 

鑑別診断(区別すべき病気)は

 

 

片側顔面けいれんと同様に勝手に顔の筋肉が動く病気がいくつかあります。

 

習慣性けいれん、本態性眼瞼けいれん、口・下顎ジスキネジー(メージュ症候群)、顔面ミオキミー、、顔面チック、局所性皮質性けいれん、麻痺後顔面けいれんなどが挙げられます(顔面のぴくつき)。

 

ここでは省略しますが、それぞれ年齢や背景の違いや、症状について両側性だったり、けいれんのリズムや頻度が違ったり、また他の症状を伴っていたりすることなどから見分けます。

 

後述しますが、片側顔面けいれんに対する外科治療は、ほかの病態には効果がありませんので、鑑別は重要です。

 

 

診断は

 

 

診断は、これまでに述べたような症状や患者さんの背景、そして画像診断により行います。画像診断に用いるのはMRIです。

 

MRIのうち、1mm以下の非常に薄い撮像方法(CISS法やSTIR法、MR angiographyなど)を用います。こうした画像方法では、神経や血管の走行を確認することができます。

 

片側顔面けいれんの主な原因は、顔面神経の起始部に血管が接触していることですから、MRIで顔面神経の周囲に原因となるような血管がないかどうかを確認することが重要です。

 

症状が典型的で、MRIで裏付けとなるような血管の走行を確認出来たら、診断はほぼ確定します。

 

 

治療は

 

 

片側顔面けいれんに対する治療は、①経過観察、②薬物療法、③ブロック注射、④外科手術になります。

 

 

① 経過観察

 

 

片側顔面けいれんの患者さんは、けいれんが頻発するために日常生活に使用が出て困ることがあるかもしれませんけれども、けいれんが直接の原因で命を落とすようなことはありません。ですので、けいれんを受け入れることが出来て、けいれんを持ったまま生活していくことが可能であれば、必ずしも敢えて治療を受ける必要はありません。

 

ストレスや睡眠不足を避けて、飲酒や喫煙は控えることをお勧めします。

 

 

② 薬物療法

 

 

残念ながら内服薬による薬物治療として確立された薬剤はありません。効果も期待できないことが多いばかりか、副作用の懸念さえありますので、積極的にお勧めできるものではありません。ただ、病院によっては内服薬による治療をお勧めするところもあります。

 

よく使用される薬物としては、抗けいれん薬(カルバマゼピン、クロナゼパム)、筋弛緩薬(バクロフェン)などです。

 

 

③ ボツリヌス毒素療法

 

 

けいれんの生じている筋肉にボツリヌス毒素を注射して、筋肉を麻痺させることにより、けいれんが起こりにくくする治療方法です。

 

ボツリヌス毒素は、食中毒の原因となるボツリヌス菌が持っている毒素を応用し、毒性成分を希釈して作った医薬品です。ボツリヌス菌は神経毒を分泌して、筋肉の麻痺を起こします。医薬品としてのボツリヌス毒素は、片側顔面けいれんのほか、麻痺後の痙縮、脳性まひなどに使われることがあります。

 

顔面けいれんの患者さんに対するボツリヌス毒素療法では、けいれんが起こる顔面の筋肉にボツリヌス毒素を注射して、筋肉を麻痺させることにより、けいれんが起こりにくくなります。症状はかなり和らぎますが、効果は3-4か月で薄れてしまいます。数か月おきに注射を繰り返す必要があります。

 

 

④ 外科手術

 

 

外科治療は、神経血管減圧術もしくは微小血管減圧術と呼ばれます。

 

患側の耳の後ろの頭蓋骨に500円玉程度の孔を開け、そこから手術用顕微鏡で小脳と骨の隙間を覗き込んで、顔面神経を圧迫している血管を移動します。問題となっている血管を完全に神経から外して、手術用の人工物で周辺の骨に固定して二度と接触しないようにすることが最も優れた方法です。ただ、血管を神経から十分に外すことができない場合には、代替方法として神経と血管との間にクッションとなる人工物を挟み込むこともあります。後者の方法を取ると、手術成功率が下がるばかりか、再発に対する手術の際に癒着のため手術が難しくなります。

 

手術により、80~90%で症状寛解が得られ、効果の高い治療法です。概ね80%程度の患者さんで症状が消失し、症状の改善も含めると90%程度の患者さんは何らかの恩恵を受けるというイメージです。一方、再発を来す患者さんも数%程度いらっしゃいます。

 

この手術の最も高率に起こり得る危険性としては、聴力障害が挙がります。聴神経は、顔面神経のすぐ隣を並走して走っています。聴神経は、脳神経の中でも最もデリケートな神経の一つです。小脳をちょっと引っ張っただけでもすぐに聴力が下がってしまうことがあります。経験が豊富で上手な術者がしても3-5%程度は起こるようですし、一般の施設の中では10%もしくはそれ以上の確率で起こると報告している施設もあります。聴力障害を避けるため、もしくは早期に察知するため、術中には殆どの施設で聴性脳幹反応(ABR、BAEP)と呼ばれる脳波を記録しています。手術を行う側の耳にイヤホンをつけて大きな音を出し、それにより起こる特殊な脳波の反応を見ています。聴神経の障害が生じると、この反応が弱くなり、消失します。

 

その他、可能性は高くないですが、顔面神経の麻痺による顔面の歪み、眼が閉じにくいなどの症状、嚥下障害(ものが飲み込みにくい)などが生じることがあります。

 

この辺りの手術(外側後頭下開頭によるアプローチ)の一般的な危険性として、静脈洞損傷によるトラブル(出血、脳梗塞、空気塞栓、脳出血)、小脳の圧排による脳挫傷、周辺の動脈や静脈の損傷、髄液漏などがあります。小脳の脳挫傷や脳梗塞では、軽いものではふらつきや吐き気が主な症状です。大きな障害になると、意識が悪くなり、重要な静脈の損傷は生命の危機に繋がります。ただ、慣れた術者がする限り、こうしたことが起こる可能性はかなり低いと言えます。

 

髄液漏は、脳脊髄液が皮下に漏れ出す合併症です。そうなると、頭痛やめまいなどの症状が生じたり、感染しやすくなったりします。ただこの手術は、この辺りを切る手術としては比較的侵襲の低い手術ですので、皮膚を切る範囲も小さい方ですので、起こることは少ないと言えるでしょう。

 

その他、一般的なこととして、全身麻酔に伴う合併症や、長時間横になっていると生じやすい深部静脈血栓症、肺塞栓症などがあります。

 

 

 

どの治療方法を取るかは、患者さんの背景とニーズ次第です。顔面けいれんで日常生活に影響が出ているけれども手術に対する不安の大きな方は、まずはボツリヌス毒素治療を受けてみてはいかがでしょうか。

 

ボツリヌス毒素治療を受けた後に手術を希望される方の中には、ボツリヌス毒素を定期的に打つのが困るという方や、結構費用がかさむという方がいらっしゃいます。ボツリヌス毒素治療を受けてみて、自分には合っていないと思った場合には手術を真剣に考えてみるのも一つの方法でしょう。

 

手術には恐ろしい危険性も少しはありますが、大多数の患者さんが恩恵を受けることができます。成功した患者さんからは、とても感謝されることが多いと思います。そしてこの病気からサヨナラできるチャンスになると思います。