脳の病気まるわかり

舌咽神経痛

 

舌咽神経痛とは

 

喉の奥(咽頭・扁桃部)に始まり、鼓膜や耳の付近に放散する激しい痛み発作を繰り返す病気です。痛みは数秒から2分ほど持続します。

 

舌咽神経は左右12対ある脳神経のうちの第9番目で、舌と咽頭(のどの辺り)に分布しています。運動神経線維、知覚神経線維、副交感神経線維が組み込まれていて、運動線維はものを飲み込む際の嚥下に関わる咽頭筋を支配しており、感覚線維は舌の後方1/3の味覚に関与します。副交感神経線維は舌下腺と顎下腺を支配し、唾液の分泌に関与しています。

 

この舌咽神経に異常が生じると、嚥下障害(飲食物がうまく飲み込めない)、味覚障害などが生じます。

 

舌咽神経痛は稀な病気で、同じような発作性の痛みを呈する三叉神経痛と比較しても発症率は圧倒的に少ないです。三叉神経痛の第3枝の痛みと間違えやすいものですが、きちんとした診察を行えば診断が可能です。通常は40歳を過ぎてから発症し、50歳代にもっとも多くみられます。性別による差はあまりないようです。また、時に心停止や失神を来すことでも知られています。

 

 

原因は

 

舌咽神経痛は、舌咽神経が外的な刺激や圧迫を受けることによって生じます。

 

神経への刺激により、神経に異常な信号が伝わり強い痛みとして感じるのです。また、神経が圧迫された症状として疼痛発作のほか、慢性的な違和感を生じることもあります。

 

舌咽神経痛の主な原因は、動脈による舌咽神経の圧迫とされています。頭蓋内で、脳幹と頸静脈孔の間を走行する舌咽神経が血管に圧迫されることで起こります。後下小脳動脈が接しているケースが全体の80~90%で、ほかに椎骨動脈や前下小脳動脈が原因となっていることがあります。

 

その他の原因として、頭蓋内の脳実質外腫瘍(類上皮腫や神経鞘腫、髄膜腫など)のほか、稀なことですが口腔(口の中)・咽頭(のど)・扁桃の腫瘍、動静脈奇形、多発性硬化症、アーノルド・キアリ奇形、ページェット病、シェーグレン症候群などが報告されています。

 

 

症状は

 

一般的に、舌咽神経痛の痛みは片方だけの舌の付け根や喉に起こり、耳の辺りまで広がるというケースが多いようです。物を飲み込む時の他、しゃべる時、咳込むときに、喉、舌の奥、耳の周囲に痛みが出てきます。数秒から長くて2分くらい続きます。特に、冷たい水で痛みが誘発されます。

 

喉や耳の痛みが起こるため耳鼻科やペインクリニックを最初に受診するケースが多く、脳外科に紹介されてきます。

痛みの部位はやや異なりますが、三叉神経痛(特に第3枝)と同じような症状を刺すような強い痛みを片側に発作性に生じます。三叉神経痛と間違われることも少なくありません。三叉神経痛と同様に会話をしたり、食事や嚥下をしたりすると痛みが起こります。物を噛む、飲み込む、話をする、咳込むなどの特定の動作により誘発されます。

 

痛みは、「鋭く」「刺すように」「電気ショックのように」などと形容されることが多く、時として耐え難い痛みのようです。1~2%の人では心拍にも影響が出ます。心拍が非常に遅くなって一時的に停止し、失神を引き起こします。

舌咽神経痛のトリガーポイント(発痛点)は咽頭壁や扁桃部、あるいは舌根(下の付け根)です。トリガーポイントは深部にあるため同定することが困難です。

殆どの症例は片方のみの症状ですが、多発性硬化症に伴う舌咽神経痛の場合は両側性になることがあるようです。

 

 

診断は

 

問診は非常に重要です。上で述べたような特徴的な症状を、的確に把握することが診断の有力な手掛かりになります。

神経痛に特徴的な短時間の鋭い発作性の痛みの有無、また疼く部位の正確な把握が重要です。

特に、三叉神経痛と舌咽神経痛は症状が似ているため、区別することが困難なケースも少なくありません。とりわけ舌の痛みがある場合には鑑別が非常に難しくなります。

 

舌咽神経痛の診断基準(国際頭痛分類第3版)

 

A. BおよびCを満たす片側性の痛み発作が少なくとも3回ある

B. 痛みは舌の後部、扁桃窩、咽頭、下顎角直下または耳のいずれか1つ以上の部位に分布する

C. 痛みは以下の4つの特徴のうち少なくとも3項目を満たす

1. 数秒~2分持続する痛み発作を繰り返す

2. 激痛

3. ズキントするような、刺すような、あるいは鋭い痛み

D. 明らかな神経学的欠損がない

E. ほかに最適なICHD-3の診断がない

 

検査では、医師が綿棒でのどの奥の疼痛誘発部位に触れます。これで痛みが起きた場合には、のどの奥に局所麻酔薬をかけます。局所麻酔薬によって痛みが消えれば舌咽神経痛と考えられます。

また、頭部MRIも重要です。MRIでは、舌咽神経周囲に走行する血管の存在の有無を確認します。その血管が舌咽神経と接触、圧迫しているかどうかが重要です。神経や血管が極めて細いため、MRIでも血管や神経の圧迫が証明できない可能性もあります。加えて、MRIでは腫瘍の有無を確認することも重要な目的の一つです。多くの場合、神経が血管に圧迫されることで痛みが起きるのですが、稀に舌咽神経痛の原因が腫瘍による圧迫のことがあるからです。

 

 

治療について

 

薬物治療

 

疼痛の原因が腫瘍ではない場合、薬物による治療を優先させても構いません。一方、腫瘍が原因の場合には、腫瘍に対する治療方針を決定することがまず重要です。

薬物治療の第一選択薬は三叉神経痛と同様で、カルバマゼピン(商品名テグレトール)です。カルバマゼピンはてんかんのお薬ですが、同時に神経痛に対して優れた疼痛緩和効果を発揮します。

しかし、これは根本的な治療ではありません。半永久的に飲み続ける必要があります。

また、痛みを完全にコントロールできない場合や、初めはよかったが徐々に痛みが悪化して効果が薄れてしまうことがあります。

カルバマゼピンには神経の伝導を抑える作用がありますが、時に副作用を起こす事があります。主な副作用としては、眠気やふらつき、肝機能障害、薬疹、血球減少などです。こうした副作用が原因で継続できなくなる人が少なくはありません。

カルバマゼピンの他には、ガバペンチン、フェニトイン、バクロフェン、三環系抗うつ薬(気分障害:うつ病治療薬)などで、三叉神経痛の治療に用いられるのと同じ薬剤が用いられます。

 

神経ブロック

 

薬物の効果が不十分な際の代替選択肢として、神経ブロック注射があります。これは、痛みを生じさせている神経を一時的に麻痺させるものです。主にペインクリニックで行われます。

 

手術

 

薬物治療で効果が十分でない場合には外科的治療が検討されます。原因となってる血管の存在が分かっている場合には、三叉神経痛と同じく神経血管減圧術(Microvascular decompression: MVD)が行われます。

 

手術により神経を圧迫している血管を移動して神経から離すことにより、神経の圧迫を解除して痛みの原因を取り除くという手術方法です。根本的な治療であり、最も効果的な治療になります。

 

これは、全身麻酔により行います。痛みのある側を上にした側臥位(横向き)となり、頭を専用のヘッドピンで固定します。痛む側の耳の後ろの皮膚を切って開頭します。小脳を下から持ち上げるようにして舌咽神経を確認します。原因となっている血管が分かったら、これを動かして、人工物を用いて動かないように周辺の骨に固定します。

 

臨床症状が典型的で、痛みが咽頭の奥に限局した患者さんでは有効率が高いようです。

 

永続的な合併症が10%と報告されています。嚥下障害や喉の違和感、嗄声(声枯れ)などです。

その他、舌咽神経と迷走神経の上1/3を切断する“神経切断術”を行う病院もあるかもしれません。有効率は85%で、合併症として

15~25%で嚥下障害や嗄声、咳などがあったという報告があります。

 

当然ではありますが、舌咽神経痛の原因が血管による圧迫以外にある場合には、その疾患に対する治療を行います。