脳の病気まるわかり

頭蓋縫合早期癒合症

 

頭蓋骨縫合早期癒合症とは

 

赤ちゃんの頭蓋骨は多数の骨に分かれています(参照:頭蓋骨を構成する骨)。そのうち脳を覆っている部分の骨は、前頭骨、頭頂骨、側頭骨、後頭骨などです。

 

乳児期には骨と骨がまだ繋がっていません。この時期には脳が急速に大きくなる(生後1年で約2倍)ので、成長に合わせて頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大できるようになっているのです。一方、成長とともに縫合部分が強く癒合するようになり、成人では強固な頭蓋骨になります。

 

骨と骨の間の隙間は乳児期の間に埋まっていき、次第に硬い結合へと移行します。骨と骨のつなぎ目を頭蓋骨縫合と呼びます。縫合線にはそれぞれ呼び名があり、前頭骨と頭頂骨のつなぎ目を冠状縫合、左右の頭頂骨のつなぎ目を矢状縫合、頭頂骨と後頭骨のつなぎ目を人字縫合と呼びます。

 

頭蓋縫合早期癒合症とは、一ヶ所もしくは複数の頭蓋縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう病気です。このことによって頭蓋骨の拡大が妨げられます。頭蓋骨容積の拡大が脳の発達に追いつかないと、頭蓋の変形や脳の圧迫、頭蓋内圧の亢進などを引き起こす場合もあります。狭頭症とも呼ばれます。

 

性差は3:2で、男性にやや多いようです。

 

頭蓋内圧亢進が持続していると、頭痛の原因になったり発達への影響が生じたりするようです。 新生児や乳児では頭蓋骨の変形のほか、頭が小さい、大泉門の早期閉鎖などがきっかけとなって見つかります。幼児期には、頭蓋内圧亢進に伴う頭痛、視力低下、言葉の遅れや多動症などがきっかけになる事もあります。さらに学童期になると精神運動発達障害を伴う場合があります。

 

 

「向き癖」や「扁平頭」との違いは

 

乳幼児の頭の形の左右差や出っ張り、凹みが気になることがあります。殊に、後頭部の左右差が見られることが多くありますが、この多くは、「向き癖」によるものです。赤ちゃんの頭蓋骨は薄くて柔らかいので、長いあいだ同じ方を向いて横になっていると、頭の形に一定の癖がついてしまいます。そのまま修正されずに成長すると、向き癖による頭の歪み「扁平頭」が残ってしまいます。

 

「向き癖」が気になったら、乳児期の早いうちに赤ちゃんの体や頭の位置や向きを工夫して、いつも同じ方向ばかり向かないように工夫するとよいでしょう。

 

ただし、頭蓋骨縫合早期癒合症との区別は容易でないので、気になる場合には小児専門の脳神経外科で相談するのがよいと思われます。

 

 

分類

 

全体の75-80%は単一の頭蓋縫合の早期癒合で、複数の縫合線の早期癒合が20%程度あるとされています。

 

早期に癒合する縫合によりそれぞれ特徴的な頭の形になります。矢状縫合の早期癒合では前後に長い“舟状頭蓋”、片側冠状縫合早期癒合や片側人字縫合早期癒合では左右非対称な“斜頭蓋”、前頭縫合早期癒合では前額部の狭くなった“三角頭蓋”、両側冠状縫合早期癒合では前後に短く横幅の長い“短頭蓋”と呼ばれます。

 

その他、複数の縫合線が早期に癒合するケースでは、“尖頭蓋(塔状頭蓋)”や“クローバーリーフ頭蓋”などと呼ばれる特殊な頭の形になります。

 

矢状縫合の早期癒合が5-6割を占め、次いで冠状縫合>前頭縫合であり、人字縫合の早期癒合は1~3%程度です。複数の縫合の癒合は15~20%程度あります。

 

頭蓋縫合早期癒合症のうち、頭蓋骨以外に問題のないものを非症候群性と呼びます。一方、顔面の低形成や手足の変形を合併するものを症候群性と呼びます。非症候群性の頭蓋縫合早期癒合症の原因はまだよくわかっておらず、特発性(遺伝との関連は薄い)のものがほとんどです。症候群性頭蓋縫合早期癒合症(クルーゾン症候群、アペール症候群、ファイファー症候群など)は特徴的な顔貌を呈し、手足の病変や水頭症などを伴います。線維芽細胞増殖因子受容体の遺伝子変異(fibroblast growth factor receptor (FGFR)遺伝子)が原因として同定されています。

 

症候群性では顔面、四肢、指の異常から気づかれる事もあります。また、合併する可能性のある疾患・症状として、水頭症や脳梁形成不全、けいれん等があります。顔面骨の発育障害のあるケースでは、眼球突出や上気道狭窄による呼吸障害を伴うこともあります。

 

 

診断は

 

診断の手始めは、まず頭蓋の変形を注意深く観察することです。

 

頭蓋骨の単純X線撮影は、頭蓋骨の変形や縫合線の状態確認に有用です。最近では、CTを1mm程度の非常に薄いスライスで撮影し、それを3次元的に作り直した画像(3D-CT)が診断にとても有用です。

 

その他、水頭症や脳の奇形を合併していないかどうかを確認するためにMRIを行います。更に、施設や症例によっては頭蓋内圧モニタリング,脳血流測定などの検査も行われることがあります。

 

 

治療について

 

治療方法は手術になります。

 

治療の目的には主に次のような事があげられます。

 

  • – 頭蓋の容積を拡大し、頭蓋内圧を正常化することで、脳機能の障害を予防・改善する(脳機能温存)。
  • – 頭蓋・顔面の形を改善する(整容的な目的)。

 

 

手術適応については、早期癒合した縫合、年齢、水頭症の合併の有無などを考慮して決定します。

 

手術の時期は、生後 6ヶ月以後まで待つことが多く、さらに顔面骨の形成が必要な場合については通常永久歯の影響などを考慮したうえで学童期に治療を検討します。

 

一つの縫合の早期癒合では、1歳になるまでに手術を行えば、影響は少ないとされています。

 

複数の縫合の早期癒合では、より早い時期から、しかも複数回に分けて手術を行うことが望ましいとされています。

 

なお、頭蓋内圧亢進のある場合や呼吸障害のある場合には、できるだけ早期の手術を検討します。

 

一方、頭蓋の形態的な変化の軽い年長児では、手術を行わなくてよいこともあります。

 

 

手術法について

 

早期癒合している頭蓋縫合を切除するだけのものから骨延長法を用いた 頭蓋形成術まで様々な方法があります。

頭蓋骨縫合早期癒合の部位や、年齢や合併疾患(水頭症など)の有無などを考慮して選択します。

手術の合併症として、脳挫傷、頭蓋内出血、髄液漏、細菌感染、大量出血などがあり得ます。

 

縫合切除術

 

早期癒合した病的な縫合線を切除します。

他の術式と比較して出血量が少なく手術時間も短いため、生後 3ヶ月以内の早期に顕著な頭蓋内圧亢進を認めた場合に行われる事があります。主に矢状縫合が対象となります。一時的な減圧効果は得られますが、頭蓋内容積を確実に大きくして更なる形態の改善を目指すためには、改めて頭蓋形成が必要になります。術後にヘルメットを使用する施設もあります。

 

 

頭蓋形成術

 

3~6か月以降の児が対象になります。

頭蓋骨を分割して、骨片を前進させたり組み換えたりしたうえで固定する方法です。骨の固定には吸収性で厚みの薄い吸収性のプレートを用います。

冠状縫合や前頭縫合の早期癒合に対するfront-orbital advancementは、代表的な術式の一つです。

1回の手術で良好な形態の頭蓋を作製することが可能です。しかし、 手技が煩雑で、延長量に限界があり、後戻りも大きいといった欠点もあります。

 

 

頭蓋骨延長法(内固定式骨延長法)

 

切り開いた骨の縁に延長器を固定し、手術後に1mm/日程度の割合で徐々に骨と骨との間を開いていく方法です。頭皮も徐々に伸展するので皮膚の過度な緊張は生じません。術後に1ヶ月ほどかけて骨を徐々に延長することで、一期的な頭蓋形成術よりも大きな拡大量を得られます。

しかしこの方法で行う延長は、原則として1つの骨について1方向のみで、形態的に十分に満足のいく結果を得ることができないこともあります。また、延長期の抜去手術が必要です。

 

 

MCDO法(外固定式骨延長法)

 

Multi-directional Cranial Distraction Osteogenesis(多方向性頭蓋延長術)です。

最近、各施設より報告が増えてきた術式です。

頭蓋骨をタイル状に分割し、ヘルメット型の延長器を装着し、術後に多方向に牽引することで、頭蓋の容積拡大を目指します。あらゆるタイプの頭蓋縫合早期癒合症に対して良好な頭蓋形態を獲得できます。延長に要する期間は、内固定式延長法と比較すると、大幅に短くなります。

 

 

症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症

 

クルーゾン症候群(Crouzon症候群)

 

代表的な症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症のひとつで、出生25,000人あたり1名前後と推定されています。

 

典型例では、両側冠状縫合早期癒合に伴う短頭蓋変形を呈します。舟状頭蓋、三角頭蓋、塔状頭蓋、クロバーリーフ症候群を示すこともあります。

 

眼球突出、顔面の凹み(中顔面の後退)、上気道狭窄、水頭症、キアリ奇形など多彩な症状を合併します。上顎骨低形成のために咬合不全を伴うことがあります。四肢には明らかな異常を伴いません。

 

発達遅滞は、その他の症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症に比べると少なく、10~20%程度のようです。

 

FGFR2遺伝子の変異が高率に認められます。遺伝により家族性に発症するケース(常染色体性優性遺伝)が多いですが、遺伝とは関係のない例も1/4程度あります。

 

 

アペール症候群(Apert症候群)

 

頭蓋変形と高度の合指(趾)症が特徴で、出生時に診断がつくことが少なくありません。短頭蓋・頭囲拡大を伴います。

 

Apert症候群の頻度は出生55,000人あたり1名前後と推定されています。

 

両側の冠状縫合、人字縫合の早期癒合があります。、大泉門は開大しており、閉鎖時期も通常より遅れます。

 

脳にも、脳梁形成不全や脳回の異常などを合併することも多く,このため発達遅滞を伴うケースが過半数に上ります。

 

上顎骨の低形成や小さい鼻、高口蓋や口蓋裂等を合併し、眼窩間距離の開大が特徴の一つとされます。また、頸椎癒合や心臓などにも病気を合併することもあります。

 

FGFR2のSer252Trp(2/3)とPro253Arg(1/3)のいずれかのミスセンス変異を高率に認めます。常染色体優性遺伝疾患ではありますが、多くは弧発発症例であり、父親の年令(高齢)との関連が知られています。

 

 

ファイファー症候群(Pfeiffer症候群)

 

両側の冠状縫合、矢状縫合の早期癒合と、母指の変形、部分的な合指を特徴とします。

 

予後は不良と考えられていますが、積極的な治療により予後の改善が期待されています。

 

3 つのタイプに分類され、タイプによっては種々の先天性病変を合併することがあります。 I 型は軽症で、頭蓋骨縫合早期癒合と母指(趾)の変形が主体で、精神運動発達遅滞は少ないとされています。 II 型は水頭症を高率に合併し、高度の頭蓋変形(クローバー葉頭蓋)を伴います。III型も頭蓋顔面の変形が強い上に、様々な先天性病変を合併し、予後不良と考えられています。

 

I型の大部分、そしてII型とIII型でFGFR2遺伝子の変異を認めます。