脳の病気まるわかり

宣言的記憶 と 非宣言的記憶

長期記憶の分類

 

- 宣言的記憶
・ エピソード記憶
・ 意味記憶
- 非宣言的記憶
・ 手続き記憶
・ プライミング
・ 古典的条件付け
・ 非連合学習

 

 

長期記憶には、言語的な情報(言語的な記述・事実・意味)が関わり言葉で表現できる「宣言的記憶(陳述記憶)」と、言語とは無関係に無意識的な行動や思考の手続きが記憶される「非宣言的記憶(非陳述記憶)」があります。前者はイメージや言葉としてその内容を頭に浮かべる(想起する)ことができ、言葉で述べる(陳述する)ことができる記憶で、事実や経験に関わるものです。後者は言葉によらない記憶で、その代表が手続き記憶です。これは技能や動作など「体で覚えている」記憶です。

 

 

宣言的記憶

 

宣言的記憶は、更に、「エピソード記憶」と「意味記憶」に分けることが出来ます。

 

自分の経験や思い出など、身の回りで起きた出来事に関する記憶を「エピソード記憶」といいます。例えば、「いつどこで誰と何を食べた、美味しかった、楽しかった」、などです。

 

意味記憶」は知識に相当します。一般的な知識や教養など、普遍的な事実に関するものを含み、用語の定義や客観的な知見などです。「リンゴ」といえば皮が赤い冬の果物で、英語では”アップル”ということをご存知と思いますが、これの「リンゴ」という言葉は意味記憶になります。勉強によって得る知識の大半は意味記憶に該当します。

 

エピソード記憶に関わる脳の部位として、海馬、視床、乳頭体、脳弓、前脳基底部など、Papez回路を構成する各部位が挙げられます。海馬を損傷した健忘症患者さんでは、エピソード記憶の障害が顕著である一方、他の記憶の障害は軽度です。

 

意味記憶に関わる部位としては、特に側頭葉の重要性が指摘されています。例えば側頭葉前方部が局所的に萎縮すると、単語、物品、人物などの意味理解が選択的に障害される意味認知症が生じると報告されています。

 

記憶の特性として、意味記憶よりもエピソード記憶のほうが、長期記憶に移行しやすいものです。また、意味記憶と比較して、エピソード記憶の方が再生しやすいものであります。これを利用して、イメージで記憶するということが長期記憶に結び付きやすいということがいえます。イメージするということは、想像のなかで体験していることになり、エピソード記憶とつながります。そして、取り出しやすい記憶となります。

 

更に、もしそこに感情を移入する(つまり扁桃体を介入させる)と、より強固なきおくになりやすくなります。

 

 

非宣言的記憶

 

非宣言的記憶とは意識上に内容を想起できない記憶で、言葉で表現することも容易ではありません。非宣言的記憶には「手続き記憶」、「プライミング」、「古典的条件付け」、「非連合学習」などが含まれます。人が正確かつ効率的に動作を行うのに役立ちます。

 

 

手続き記憶

 

手続き的記憶は非宣言的記憶の代表的なものであり、体で覚える記憶のことです。このなかには技能や習慣などが含まれます。同じ経験を反復することにより形成され、記憶が一旦形成されると自動的に機能し、長期間保たれるという特徴があります。

 

自転車の乗り方などはわかりやすい一例です。練習するまでには乗れなかったのに、一度乗れるようになると長い間乗らなくても乗ることが出来ます。他に、水泳、スキーや柔道などのスポーツにおける体の動き、楽器の演奏、身近な所では箸や鉛筆の使い方などがあります。

 

手続き記憶には海馬や側頭葉ではなく、小脳や大脳基底核が関与していると考えられています。大脳基底核は体の筋肉を動かしたり止めたりするといった大雑把な動きの記憶に関与し、小脳は筋肉の動きを細かく調節し、バランスを保ちつつ動くための情報の記憶に関与します。パーキンソン病(大脳基底核の損傷)や小脳変性症患者では、手続き記憶が障害されてしまいます。その他、手続き記憶の獲得には前頭葉の前補足運動野が、記憶に基づく運動の実行には補足運動野が役割を担っていることが分かっています。

 

アルツハイマー患者は、まずエピソード記憶を保持することができなくなりますが、手続き記憶はかなり長い間保たれていることが多いと言われます。これは「宣言的記憶」と「手続き記憶」で記憶のメカニズムや関与する脳の部位が異なることを意味しています。認知症がかなり進行して昔のことを覚えていなくても、むかし覚えた楽器の演奏などは出来てもおかしくないのです。また、海馬は難治性てんかんの原因となりやすいことがわかっていますが、てんかん患者が手術で海馬を除去した後にも手続き記憶は保たれています。

 

 

プライミング

 

プライミングとは、以前に経験・取得した情報が、のちに得た情報に無意識に影響を与える現象を言います。「prime」には「入れ知恵をする」などの意味があり、プライミングは無意識に覚えている記憶です。あらかじめある事柄を見聞きしておくと、関連した別の事柄が想起しやすくなります。一種の連想ゲームです。果物の会話をしたあとに、赤いものと言えば何がある?と、質問されたら、イチゴやリンゴを思い浮かべるようなものです。

 

 

古典的条件付け

 

古典的条件付けとは、≪梅干しを見る → 唾液が出る≫というようなものです。経験の繰り返しや訓練により、もともとは結びついていなかった刺激(梅干し)に対して、新しい反応(唾液)が形成される現象をいいます。学習の一形態であり、関係しない2つのものを連続して提示し続けることで、その2つの刺激の間に結びつきが生じるものです。条件反射のようなもので、「パブロフの犬」として知られています。

 

 

非連合学習

 

非連合学習とは一種類の刺激に関する学習であり、同じ刺激の反復によって反応が減弱したり(馴化、慣れ)、増強したり(鋭敏化、感作)する現象をいいます。近くで工事の大きな音が始まると、最初に耳にしたときにはどきっとしますが、その音が続いているうちに次第に慣れてどきっとしなくなります(馴化)。一方、我々にとって有害な刺激が加わった場合には別の反応(鋭敏化)が生じます。例えば、夜のお墓で物音がすると、物音に対する驚愕反応は大幅に増強されます。こうした反応はいずれも一時的なもので,数分間から数時間で元に戻ります。しかし,間隔をあけて何度も刺激を繰り返し受けた場合には学習効果が発生して、長時間持続するようにもなります。