脳の病気まるわかり

脳血管性認知症

 

脳血管性認知症とは

 

脳血管性認知症は、脳梗塞(脳の血管がつまった状態)や、脳出血(脳の血管が破れて出血した状態)など脳の血流障害が生じた結果として脳機能が低下し、認知症になるものを指します。男性の方が女性よりも多いとされています。

 

 

混合型認知症とは

 

脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症が併発している事があります。両方に共通する発症危険因子の存在も分かってきました。経過や症状、画像所見から必ずしも明確にできないケースもあり、混合型認知症と呼ばれています。混合型認知症の割合は15%程度と言われています。

 

 

まだら認知症とは

 

まだら認知症とは、認知症の分類のことではありません。

 

脳梗塞や出血が起こると、起こった部分の脳機能が局所的に障害されますが、血流に問題ない部分の脳機能は維持されます。従って、アルツハイマー型認知症では認知機能が全般的に一様に衰えていくのに対し、脳血管性認知症では脳卒中で脳細胞が壊れてしまった部分の機能のみが低下して、症状の出方には個人差があります。更に、出来ることと出来ないこととのギャップが際立ったものになります。理解力には問題ないのに、ひどい物忘れがあったりします。また、同じ事をしても出来る時と出来ない時の差が目立ったりします。このように認知機能の低下が一様でないので、まだら認知症と呼びます。

 

 

脳卒中後認知症

 

脳血管性認知症の患者さんには、明らかな脳卒中のエピソードがある場合と、そうでなく無症状のうちにいつのまにか脳血流の障害が増えている場合とがあります。
脳卒中を発症しその治療後に認知症を来すものは、脳卒中後認知症と呼ばれています。脳卒中後認知症の割合は脳卒中患者の30%にも上ると報告されています。

 

 

発症機序による分類

 

現在最も代表的な診断基準(NINDS-AIRENの診断基準)では下記の臨床亜型が示されています。ここは難しいので、興味のない方は飛ばして読んでください。

 

NINDS:米国国立神経疾患・脳卒中研究所
AIREN:Association Internationale pour la Recherché et l’Enseignement en Neurosciences

 

1.多発梗塞性認知症(Multi infarct dementia; MID)

 

多発梗塞性認知症は、主に大脳皮質(脳の表面)の大小の脳梗塞が原因となります。障害される大脳の部位と脳梗塞の大きさによって症状の出方は異なります。失語、失行、失認、視空間障害、構成障害や遂行機能障害、運動麻痺を伴う経過は急性発症または階段状悪化を示します。

 

2.戦略的な部位の単一病変による認知症(Strategic single infarct dementia)

 

単一の脳梗塞(または脳出血)に伴い発症する認知症です。単一の脳梗塞と認知症との関連を明らかにすることはしばしば容易ではないのですが、脳卒中発作と認知症発症の時間的関連から関連を明確にすることができる場合があり、このように呼ばれます。

 

3.小血管病性認知症(Small vessel disease with dementia)

 

脳血管性認知症の原因として最も多いものです。大脳深部、穿通枝領域に小さな脳梗塞(ラクナ梗塞、白質病変)が多発することが特徴です。このような脳梗塞が生じても全く無症状の場合があり、必ずしも脳卒中後認知症や階段状に増悪する認知機能障害の経過を示しません。

皮質下血管性認知症のうちで、特にラクナ梗塞主体のものは多発性ラクナ梗塞性認知症、白質病変が主体となるものはBinswanger病と呼びます。

 

4.低灌流性血管性認知症

 

脳全体の循環不全や低酸素が原因となるものです。単一の血管の血流障害ではないという点において、通常の脳卒中とは機序が異なります。

 

5.脳出血性血管性認知症

 

脳出血くも膜下出血が原因となるものです。

 

6.その他

 

比較的稀な遺伝性血管性認知症として、
・Cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CADASIL)
・Cerebral autosomal recessive arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy (CARASIL)
・遺伝性脳アミロイド血管症
・Mitochondrial encephalomyopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes (MELAS)
・Fabry病
・retinal vasculopathy with cerebral leukodystrohphy (RVCL)
などがあります。

 

 

画像診断

 

診断には、MRIが有用です。MRIでも、脳梗塞の診断にはFLAIR画像が、微小出血の診断にはT2*画像や磁化率強調画像(susceptibility-weighted imaging; SWI)が有用です。急性期の脳梗塞の診断には拡散強調画像を持ちます。
脳血管性認知症のMRIの特徴として、ラクナ梗塞、白質病変、脳出血(深部型、皮質下型)、多発皮質梗塞、微小出血などがあります。
ラクナ梗塞は穿通枝領域(大脳の深部)に生じる径15mm以下の梗塞です。MRIでは、FLAIR画像やT2画像で白い点が多数みられるようになります。
白質病変は、大脳の脳室近傍の脳がFLAIRなどで白くなった状態です。前頭葉や側脳室の前角周囲に顕著ですが、後角周囲に目立つこともあります。若年者には少なく、加齢に伴って増加します。
微小出血は、ヘモジデリンに高感度なT2*強調画像やSWIでわかります。高齢者の脳アミロイド血管症との関連も示唆されています。

 

 

症状

 

脳血管性認知症は、突然の脳血管障害をきっかけに急激に認知症を発症する場合と、小さな脳梗塞を繰り返して起こしているうちに徐々に認知障害が現れる場合とがあります。
多くの血管性認知症は、脳血管が詰まったり、破れたりすることを契機に突然発症します。そして新たに脳血管が詰まったり、破れたりすると、そのたび一段と症状が悪くなります。「階段状」の増悪と呼ばれています。
しかし、細い血管が少しずつ詰まるタイプの血管性認知症の場合は、必ずしも「階段状」には進まず、ゆるやかな進行をたどることがあり、他の主な認知症との鑑別が困難な場合があります。

 

脳血管性認知症では、アルツハイマー型認知症と比較して、歩行障害、嚥下障害言語障害排尿障害といった身体的機能障害を伴うことが多く、感情失禁、意欲低下、うつ等の気分障害を認めることも多いこともと特徴です。
脳血管性障害の特徴的な症状のひとつが感情失禁です。感情のコントロールがうまくできず、些細なことで泣いたり怒ったりします。
脳卒中罹患後にうつを呈する状態は, 脳卒中後うつ状態として注目されています。脳血管性認知症では、アルツハイマー型認知症と比較してもうつ状態、うつ病を併発しやすく、またうつ病が悪化する可能性も高いと考えられています。
脳血管性認知症の初期はもの覚えが悪くなったりできないことが増えたりしても、その他の理解力は保たれている場合も多いものです。このような場合、自分ができなくなったことを実感して、ショックを感じたり不安な気持ちになったりもします。落ち込みやすく、うつ状態になることも多くあります。

 

その他、特殊なケースですが、遺伝性脳血管性認知症であるCADASILでは,片頭痛,気分障害(うつ)を伴うことが知られています。遺伝性脳血管性認知症であるCARASILでは,認知症に加えて変形性脊椎症に伴う腰痛や禿頭を伴うことが知られています。

 

 

予後

 

脳卒中後の認知症機能低下の予測因子として、年齢と脳卒中の重症度が重要です。
脳血管性認知症の生命予後は非認知症者に比べて短くなる傾向にあるようです。

 

 

治療・予防

 

~脳血管性認知症になるのを防ぐためにできること~

 

現在の医療では、脳卒中によって失われた神経細胞を元に戻すことはできませんし、血管性認知症を根治することもできません。

 

しかし、脳卒中の危険因子を改善や管理することで、血管性認知症の進行を予防することは可能です。脳血管性認知症の予防には、その背景にある脳血管障害にならないようにすることが何よりも重要です。脳血管性認知症は、「予防が可能な認知症」と言えます。

 

脳血管性認知症の場合、原因となるのはほとんどが生活習慣病といわれるものです。脳梗塞の危険因子には、高血圧、糖尿病、高脂血症、心房細動などが挙げられます。また、脳出血の主な危険因子は高血圧です。高血圧症や糖尿病、肥満、運動不足などは動脈硬化を進行させるものであり、それらの治療は血管性認知症の予防にも繋がります。

 

 

薬物療法

 

とりわけ重要なのが、高血圧の管理です。本邦の久山町研究でも, 脳血管性認知症の危険因子として、血圧が重要であることが報告されています。特に、中年期の高血圧は脳血管性認知症との強い関連が示されており、中年期の高血圧は積極的に治療するべきです。食事や運動などの生活習慣の改善を行い、また、必要に応じて降圧薬を使い血圧をコントロールします。

 

また、糖尿病と高脂血症は、動脈硬化を促進し、結果的に脳卒中の発症リスクを高めます。従って、生活習慣の改善を行い、必要に応じて薬を使い、血糖や血中脂質をコントロールします。ただ、 血糖コントロール単独による脳卒中の再発抑制効果は未だ不明であり, 高血圧その他の危険因子と併せて治療することが重要です。スタチンと呼ばれる高脂血症の代表的治療薬の投与により脳卒中は減少しますが、認知機能への影響に関してはまだわかっていません。

 

脳血管性認知症に対して、アルツハイマー病の薬や脳循環代謝改善薬が有効なことがわかっています。アルツハイマー病の薬のコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、およびNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)は、脳血管性認知症の中核症状の治療に対して効果があることが確かめられています。しかし、日本国内では保険適用が認められていません。

 

脳循環代謝改善薬には、「ニセルゴリン(サアミオン)」と「アマンタジン(シンメトレル)」の2種類があります。これらは、脳梗塞の後遺症として起こる意欲や自発性の低下に対する使用が認められています。更に、ニセルゴリンには脳血管性認知症の認知機能の改善効果あることが示されています。

 

その他、精神的な焦燥、興奮、攻撃性、せん妄などに対して「チアプリド(グラマリール)」や「リスペリドン(リスパダール)」などが使用されます。

 

心房細動という不整脈があると心原性塞栓と呼ばれるタイプの脳梗塞になりやすいことが知られていますが、心原性塞栓から脳卒中になると、認知症リスクが2-3倍に高まるとする報告が多くみられます。心房細動患者では、ワーファリンやNOACによる適切な抗凝固療法を行うことが認知症予防に繋がると言えます。

 

一方、その他の脳梗塞の再発予防を目的としてしばしばアスピリンを始めとした抗血小板薬が用いられますが、認知症の予防に抗血栓薬が有効かどうかはまだ明らかでありません。しかし、認知症予防以前に脳梗塞の再発予防の目的で、抗血小板薬が使用されます。

 

 

生活習慣の見直し

 

喫煙は脳血管性認知症の危険因子であると考えられており、脳血管性認知症予防のためには禁煙が望ましいと言えます。

 

運動, 散歩によって脳血管性認知症の発症が減少することが示されており、適度な身体活動が推奨されます。散歩でも良いので適度な運動を心掛けましょう。

 

食生活との関連では,ビタミンE、C、魚に含まれる脂肪性が脳血管性認知症予防に有効とされています。バランスの良い食事を摂りましょう。

 

痩せすぎと肥満は共に認知症になりやすいようです。脳血管性認知症予防のために、中年期からの継続的な体重管理が望ましいものです。

 

規則正しい生活、食習慣の見直しを行い、生活習慣病を予防することで、回避できる可能性のある血管性認知症の予防に努めましょう。