脳の病気まるわかり

認知症とは

 

認知症とは

 

 

「記憶する」、「考える」、「判断する」、「人とコミュニケーションをとる」など、私たちの行動の根拠となる判断に関わる脳の働きを「認知機能」と言います。「認知機能」は、私たちが日常生活を過ごすために欠かせないものです。この「認知機能」が、何らかの脳の障害によって著しく低下し、日常生活に支障をきたすようになった状態のことを「認知症」といいます。

 

人の大脳には約140億の神経細胞があると言われています。20歳を過ぎると、その神経細胞が1日約10万個ずつ減っていくとされ、脳機能も加齢とともに衰えきます。

 

人の脳の機能は6歳ごろまでにその分布や基本的な役割分担が形成されます。20歳ごろまでは記憶力が優れ、新しい物事も自然と覚えることが出来ます。20歳を過ぎるともの覚えの能力は低下しますが、知識や経験を蓄えることで知能的には向上の余地があります。しかし、脳神経の加齢性変化に伴い40台をピークとして、知的能力は次第に衰退していきます。60歳を過ぎると脳機能そのものの低下が知識や経験の蓄えを上回るようになり、結果として記憶力・判断力・適応力などが衰えるようになります。

 

このように物覚えが悪くなったり、判断力が衰えたりはしますが、これは老化の一部であって、病気によって起きる認知症とは違います。老化による機能低下は衰えがゆるやかです。「久しぶりに会った人の名前が思い出せない」というような経験は誰にでもあります。物忘れは単に年齢のせいで起こるもので、年齢を重ねれば誰にでもあることです。記憶力の低下も軽いものに留まりますので、日常の生活に大きな支障が出ることはありません。80歳や90歳でも頭がしっかりしている方も大勢いらっしゃいます。

 

単に、加齢とともに物覚えが悪くなるといった誰にでも起きる自然なものは、認知症とは呼びません。認知症とは、認知機能の病的な低下を指します。認知症による物忘れは進行性で、今言ったこと、今したことさえすぐに忘れてしまうようになってしまいます。その結果として日常生活の至るところで支障が出てくるのです。

 

 

日本神経ガイドラインの定義

 

日本神経学会のガイドラインでは、認知症は以下のように定義されています。

 

「一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときにみられる。」

 

 

DSM-Ⅳ-TRによる認知症の診断基準

 

(アメリカの学会による診断基準)

 

A. 多彩な認知障害の発現。以下の2項目がある。

1) 記憶障害(新しい情報を学習したり、以前に学習していた情報を想起する能力の障害)

2) 次の認知機能の障害が1つ以上ある。

a. 失語(言語の障害)

b. 失行(運動機能は障害されていないのに、運動行為が障害される)

c. 失認(感覚機能が障害されていないのに、対象を認識または同定できない)

d. 実行機能(計画を立てる、組織化する、順序立てる、抽象化すること)の障害

B. 上記の認知障害は、その各々が、社会的又は職業的機能の著しい障害を引き起こし、また、病前の機能水準からの著しい低下を示す。

C. その欠損はせん妄の経過中にのみ現れるものではない。

 

 

ICD-10による認知症診断基準

 

(世界保健機構(WHO)の診断基準)

 

Q1 以下の各項目を示す証拠が存在する。

1) 記憶力の低下

新しい事象に関する著しい記憶力の減退.重症の例では過去に学習した情報の早期も障害され、記憶力の低下は客観的に確認されるべきである。

2) 認知能力の低下

判断と志向に関する能力の低下や情報処理全般の悪化であり、従来の遂行能力水準からの低下を確認する。

1)、2)により、日常生活動作や遂行能力に支障をきたす。

Q2 周囲に対する認識(すなわち、意識混濁がないこと)が、基準G1の症状をはっきりと証明するのに十分な期間、保たれていること、せん妄のエピソードが重なっている場合には認知症の診断は保留。

Q3 次の1項目以上を認める。

1) 情緒易変性

2) 易刺激性

3) 無感情

4) 社会的行動の粗雑化

Q4 基準G1の症状が明らかに6か月以上存在して確定診断される。

 

 

 

なお、先天的に脳の器質的障害があったり、幼少期に脳に何らかの障害ができて、知能発達面での遅れがある状態には認知症という言葉は用いず、知的障害と呼ばれます。

 

「認知症」は、かつては「痴呆(ちほう)」と呼ばれていました。「痴呆」という言葉を国語辞典で調べると、「愚かなこと」、「愚かな人」という意味が含まれます。そこで厚生労働省は、痴呆症という言葉自体に差別的なニュアンスが含まれており、早期受診の妨げになるとして、2004年に名称の公募などを通じて「認知症」に変わりました。

 

実際、多くの方には認知症に対する抵抗感があると思います。認知症にはなりたくない、自分は認知症ではないという気持ちです。ですから、本人や家族は「まさか認知症ではないだろう。」と楽観的に思い込む傾向があり、発症から受診までに非常に時間がかかる場合が多いのです。実際、症状が気になり始めてから病院を受診するまでに1~2年かかるケースは非常に多いものであります。