脳の病気まるわかり

– てんかんと妊娠 –

 

若い女性が抗てんかん薬を内服している場合、妊娠する前から考えておく必要のあるいくつかの事柄があります。

 

 

疑問1.てんかんは遺伝するのか

 

てんかんにもいろいろな種類があります。その多くは遺伝するものではありません。遺伝子の関わる度合いが高いのは、一部の家族性のてんかんのみです。その中には、常染色体性優性夜間前頭葉てんかん、良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん、家族性点頭てんかんといった一部の家族性てんかんがあります。こうした一部のてんかんを除くと、遺伝子がてんかんに与える影響は低いものといっていいと思います。

 

てんかんは、単純に遺伝子の異常によって生じる病気ではなく、沢山の要因が重なって発症すると考えられています。一般人口の中でてんかんの有病率は1%程度であり、てんかんが治った人も含めると25歳までに1~2%の人が一度はてんかんに罹ります。てんかん患者さんのお子さんの場合には6%という報告があり、一般人よりも3倍高いと認識されています。

 

てんかんの種類別では、特発性てんかんを持つ親の子供がてんかんになる可能性は、症候性てんかんを持つ親の子供がてんかんになる割合と比較すると高いようです。

近い親戚ににてんかんに罹ったことのある方のお子さんがてんかんに罹る可能性は一般人と比較してさほど変わらないという認識でいいと思います。

 

 

疑問2.抗てんかん薬が胎児に与える影響

 

抗てんかん薬は、胎児に幾つかの問題を起こすことが知られています。

 

最もよく取り上げられる問題は、胎児に奇形が生じる可能性についてです。様々な報告がありますが、バルプロ酸(以下全て、薬の一般名です)はその可能性が高いことで知られています。その他、フェノバール、トピラマート、フェニトインなどでも高い可能性があります。他の薬剤でも、危険性は排除できません。

 

具体的には、一般の妊娠において何らかの奇形が発生する可能性は2~3%程度との報告が多いのですが、抗てんかん薬を内服しているとその確率が2-3倍になると考えられています。その中には、心奇形や口唇口蓋裂などもありますが、有名なものに二分脊椎があります。

 

抗てんかん薬を内服している患者さんに対して推奨されることは、
① 多剤併用している場合は、なるべく単剤治療に切り替えること
※ 使用する内服薬は危険性の報告の少ないものにすること
② 単剤治療でも薬を内服する量が多い場合には、可能な限り少ない量に減らすこと
③ 血中濃度測定の可能な薬剤の場合には、血中濃度が高すぎないかに注意すること

です。

 

それから、もう一つ挙げておく必要があります。

 

④ 葉酸の不足を予防すること

 

葉酸は、細胞の核となるDNAの合成に必要とされています。二分脊椎は、細胞形成期に分裂がうまくいかなかったために生じる奇形です。アメリカでは早くから若年女性に対する葉酸接種の推奨がなされていますが。本邦においても葉酸の接種は強く推奨されます。殊に、抗てんかん薬を内服している女性にとってはとても重要です。

 

葉酸は、一日に健常人で400μgを摂取することが勧められています。妊娠中は600μg/日、授乳中には500μg/日が必要です。病院で処方可能な葉酸は、フォリアミンという薬ですが、フォリアミン1錠には5mg(5000μg)の葉酸が入っています。これは明らかに多すぎる量なのですが、過剰摂取することで害があるのかについては今のところ結論は出ていません。そこで、ほかの方法として薬局で売っている市販のサプリに葉酸もありますので、それを摂取することがいいと個人的には思っています。葉酸は、ホウレンソウやシイタケにもたくさん含まれていすので、葉酸をしっかり補給しましょう。

 

比較的安全性の高い薬としては、ラモトリギン、レベチラセタム、ガバペンチンが挙げられます。米国食品医薬品局(FDA)の定めた危険度分類では、他の抗てんかん薬の殆どがcategory D(危険性に関する証拠がある)、category C(人間に関して明らかな証拠はない)に位置付けられており、安全性についてはやや高いということが言えます。

 

その他、最近では、バルプロ酸を内服中の妊婦から生まれた子供のIQはそうでない子供のIQと比較して有意差をもって低い傾向にあることが英文論文(Meador KJ et al., New England Journal of Medicine, 2009; Meador KJ et al., Lancet Neurology, 2013)でも示されています。

 

抗てんかん薬が胎児に最大の悪影響を及ぼすのは、妊娠してから5-6週程度の期間形成期です。つまり、妊娠が発覚した時点で対応しても遅いことになります。ですから、妊娠の可能性が少しでもある若い女性の患者さんは、前々から準備をしておかなければなりません。

 

妊娠可能な年齢の女性には、主治医などに相談して十分なカウンセリングを受けた上で、計画的に妊娠することが推奨されます。バルプロ酸は大変効果の優れた薬であり、殆どの全般てんかんにおいて第一選択薬になるのですが、上述のような背景により、結婚適齢期を迎える若い女性においては推奨できません。その場合には、他の選択肢がある限りにおいて第二選択薬の内服が勧められます。

 

 

疑問3.妊娠と発作

 

これまで述べてきたように、若年女性では抗てんかん薬を極力減らすことになります。従って、十分に発作のコントロールができないかもしれません。発作は起こっても良いのでしょうか。

 

特に危惧されることを挙げるならば、全身けいれん(強直間代けいれん)を起こすことです。全身けいれんにより、胎児の低酸素脳症や切迫流産、切迫早産に繋がる恐れがあります。それ以外のてんかん発作については、発作がかなり増えない限り慌てる必要はありません。

 

但し、妊娠中には体内の薬の血行動態が通常とは異なることを、医師は認識しておかなければなりません。一般に、妊娠中には薬の血中濃度が減少することが多いといわれています。バルプロ酸(商品名:デパケン、セレニカ)、フェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントール)、カルバマゼピン(商品名:テグレトール)、フェノバルビタール(商品名:フェノバール)などは血中濃度測定が可能です。適宜行うことが望ましいとされます。

 

てんかんのある妊婦さんのうち、60~80%の方では発作の回数が妊娠中にもあまり変わらないようです。10~20%の妊婦さんでは悪化する一方、5~10%の妊婦さんでは逆に減少する傾向があるとされます。また、妊娠前2年間に発作がなかった人では妊娠中にも発作が生じることは少ないという報告もあります。

 

薬の増量については、血中濃度の大幅な低下があったときや、規則正しく薬を飲んでいるにも拘らず発作が増加した場合に検討します。

 

但し、ラモトリギン(商品名:ラミクタール)の場合には血中濃度が特に下がりやすく、半分程度になるといわれていますので、発作が出るのを待たずに増量することも検討すべきです。

 

出産については、てんかんがあっても基本的に普通分娩が可能です。産婦人科には、発作の内容や対処方法についてあらかじめてんかんの主治医から説明してもらうようにした方がいいでしょう。分娩中に全身けいれんが生じる恐れが高い場合には、適宜ジアゼパムの座薬の頓用なども検討します。

 

 

疑問4.授乳について

 

抗てんかん薬は母乳に移行します。しかし抗てんかん薬を内服中であっても、基本的に授乳は可能です。授乳により問題が生じるとすれば、それは半減期の長い薬(体内から排泄されるまでの時間が長くかかる薬)と、母乳への移行率の高い薬です。前者としては、クロバザム(商品名:マイスタン)などのベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬や、レベチラセタム(商品名:イーケプラ)などがあります。後者としてはフェノバルビタール(商品名:フェノバール)などのバルビツール系の薬があります。

 

母親は、子供に傾眠(睡眠がやたらに長い)、低緊張(泣き声が小さい、力が弱い)、哺乳力低下(母乳を余り飲まない)などがないかどうかを注意深く観察しましょう。そういった症状があればまず産婦人科医や小児科医に相談して、授乳を控えましょう。

 

 

まとめ

 

てんかんを持っている人が妊娠を希望する場合には、計画的に準備をすることが重要です。私の知っている範囲でもてんかん患者さんで出産した方は何人もいますけれども、いずれのお子さんも正常に発達しています。主治医に子供が欲しいと考えていることを伝え、いつ妊娠しても大丈夫なようにしっかりとした準備を行うと、安心です。