脳の病気まるわかり

–てんかんの手術(概説)–

 

てんかんの手術(概説)

 

 

難治性てんかんに対する手術では、てんかんが起こる大元となっている部位にあたる脳(てんかん原性域)を切除したり、遮断して他の正常な脳から隔離したりします。

 

 

てんかん手術の適応と対象

 

 

てんかんの手術が可能なのは、脳の中のてんかんを起こす部位が明らかな患者さんです。

 

日本神経学会のてんかんガイドライン2010によると、てんかん外科治療を検討すべき難治性てんかんの患者さんは、適切な抗てんかん薬を十分な量で2~3種類以上使用し、発作が1年以上抑えきれない状態が継続している場合とされています。また、小児の場合にはてんかん発症から2年以内の早期に手術を検討すべきとされています。

 

なお、より実践的には、複数の適切な薬による治療にも関わらず発作が十分に減少せず、そのことが原因で日常生活に影響が出て患者さんが困っている場合に手術を検討すべきと考えられます。

 

例えば、毎日のように発作で倒れてしまうような人は、常に大きな怪我をする可能性があって、本人のほかに家族も目を離せずに困っているかもしれません。
発作は月に1回程度でも、仕事中に発作が起きてお客さんに迷惑をかけてしまう可能性のある人や、発作のために仕事を失ってしまったことがある人も対象かもしれません。
田舎に住んでいて、車がないと生活できなくて困っている人もいるかもしれません。
このように発作が抑制できずに日常生活に支障が出ている患者さんは、手術という選択肢を考えるに値すると思われます。

 

 

てんかん焦点切除術

 

 

てんかん原性域は、様々な検査で得られたデータを元に推定します。諸検査の結果が脳の一つの部位で一致した場合には、その部位の脳を切り取ることでてんかん発作が消失する可能性が高いと言えます(てんかん焦点切除術)。

 

問題は、全ての検査で推定された焦点が一致すればいいのですが、むしろそのようなケースの方が少ないのです。

 

例えば、MRIでは異常が見られないケースだとか、MRIでは異常がみられてもそれが脳波と一致しないだとか、PETやSPECTでは異常を見いだせないといったケースがそれに該当します。

 

主な検査結果が大体一致すれば、その部位がてんかん原性焦点と判断することも可能で、その結果に従って焦点切除手術を行います。側頭葉の内側にある海馬という場所がてんかん焦点である、内側側頭葉てんかんなどはその代表です。

 

一方、てんかん焦点の絞り込みに際して疑問がある場合には、場合には、頭蓋内の脳表面に直接、脳波の電極を置いて脳波記録を行います。この電極を、硬膜下電極と言います。といっても、脳の表面に電極を置くためには頭を開けて頭蓋骨を外すしかありません。実際には、開頭手術で50~100以上の電極を挿入することになります。一つの電極シートには4~30程度の電極がついていますので、電極シートの数としては、3-10枚程度挿入します。

そして、早い施設では当日~翌日から、遅い施設では翌週から脳波検査を開始します。これは、焦点の診断に十分な回数の発作が捕まるまで行われます。1回だけ発作があったとしても、その発作が、患者さんが通常困っている発作(習慣性発作)と同じものとは限りません。また、同じであっても、発作の生じ方や拡がり方が微妙に違うかもしれません。ですので、検査中に捕まえる発作回数は多ければ多いほどよいのです。最低でも2~3回以上発作を捕まえて、再現性を確認する必要があります。発作のデータが得られたら、このデータを元に発作起始域を同定します。

 

ただ、こうして得られた発作起始域を切除するかどうか決めるためにはまた別の問題があります。というのは、この部位の脳を切除すれば何らかの症状がでないかどうかを確認せねばなりません。

 

我々脳神経外科医は、概ね脳のどこにどのような機能があるかを知っています。ただ、脳の形はみな異なりますし、脳の機能分布にも個人差があります。そのため、頭蓋内脳波検査が終了した後には硬膜下電極を用いて脳機能を調べる検査(マッピングと言います)を行います。
これには幾つかの手段がありますが、昔から多く行われているスタンダードが電極を通して一部の脳に弱い電流を流しながら言語検査(言葉に関する課題)や運動検査(刺激に反応する体の部位を確認する)を行う方法です。その他、いくつかの新しい方法も開発されています。
このように、脳波検査でてんかん焦点を同定し、マッピングでその部位を切除しても問題ないことを確認できたら、てんかん焦点を切除します。こうした方法を、てんかん焦点を切除することから、切除外科と呼びます。

 

仮に問題があった場合にはその部位は温存するか、もしくは軟膜下皮質多切術(multiple subpial transection;MST)と呼ばれる方法を行います。

 

 

その他の術式

 

 

このようなスタンダードな手術ができればよいのですが、てんかん焦点を一箇所に同定できないがある程度絞り込める場合、もしくはてんかん焦点が少し広い範囲に広がっている場合があります。このような場合には、ある程度まとまった広さの脳を他の健常な脳から離断する手術をすることがあります。
最も広いのが機能的大脳半球離断術と呼ばれる方法です。これは、ラスムッセン症候群やスタージウェーバー病など、特定のマイナーな病気に伴い、脳の左右一側の広範な部位にてんかん焦点がある難治性てんかんのみに行われます。
もう少し限局できる場合には、大脳後方1/4離断や、前方1/4離断のような方法が取られることもあります。
こうした、てんかん焦点を切除することなく、他の部位から切り離す方法を、離断外科と呼びます。先に述べたMSTも離断外科の一種です。

 

これと似たような術式として、脳梁離断術と呼ばれるものがあります。これは、左右の脳を結ぶ最も太い線維である、脳梁というものを切ってしまう方法です。つまり、左右の脳の交通の大部分が分離されてしまうものです。ただ、これを行う適応は、一部の特殊なてんかんに限られてしまいます。典型的には、乳幼児のWest症候群に見られる点頭てんかんdrop attackと呼ばれるものです。一側の脳の限局した部位にてんかん焦点があるのですが、脳の全体に広がって全般発作を起こすため、脳全体に広がらないように左右の脳を分離するのです。
ただ、左右を結ぶ全ての線維が完全に離断されるわけではないので、その効果には個人差があり、よく効く患者さんもいれば全く効かない患者さんもいます。また、成人で脳梁を全て離断するとそれによる後遺症が出ることもありますので、全部の脳梁を一度に離断できるのは10歳未満とされています。

 

 

迷走神経刺激療法

 

 

その他の比較的新しいてんかん手術として、迷走神経刺激療法と呼ばれるものがあります。
これは、迷走神経という神経に一定間隔に電流を流すことでてんかん性の興奮を抑えるというものです。具体的には、迷走神経のうち頚の奥に走っているところを刺激します。迷走神経は体のいろんな臓器に枝を出していますが、心臓枝の関係で、左側のみに手術を行うこととされています。
迷走神経は、頚動脈と経静脈の間を走っていますので、これを確認して、電極を巻きつけます。ですから、頚部に約4cmの皮膚切開線が必要です。そして、バッテリー(刺激発生装置)は左の鎖骨の下あたりに収納します。こちらにも、4-5cmの皮膚切開線が必要です。電極とバッテリーの間は、ケーブルで結びます。
電源を入れると30秒間ごとの刺激が入り、刺激と刺激の間に5分から、1.8分の休みが入ります。弱い刺激から開始して徐々に強めていきます。
効果については、弱い刺激の段階ではっきりとわかることもあれば、数カ月から遅い時は数年以上して効果が明らかになってくることもあります。副作用として、刺激の間だけ声が出にくくなったり、咳き込みやすくなったりする人がいますが、脳を切る手術と比較すると安全な治療といえると思います。

 

 

てんかんの診断から治療までお話しました。てんかん患者さんは、正しい診断のもとに適切な治療を受けることが大切ですので、発作でお困りの患者さんはてんかんに詳しい医師を探すことをお勧めします。