脳の病気まるわかり

– 脳腫瘍による頭痛 –

脳腫瘍による頭痛の機序と症状

 

脳腫瘍患者さんが頭痛を感じることは1/3~2/3程度との報告があり、比較的多いのですが、頭痛が患者さんの最初の訴えであることは比較的少ないです。

 

脳腫瘍は、特殊な場合(具体的には、硬膜や脳の太い血管に存在する痛覚受容器が刺激を受ける場合)にのみ頭痛を伴います。典型的な脳腫瘍の頭痛は、起床時に強いと言われます(早朝頭痛)が、意外に少ないようです。

 

頭蓋内の痛覚受容器(痛みを感じる神経)は硬膜と太い血管の壁に存在しています。脳には痛を始めとする感覚の受容体が存在しないので、脳を直接触られても何も感じません。この特徴を応用した手術が覚醒下手術と呼ばれるものです。脳の覚醒下手術中には、患者さんは痛くないので目が覚めて会話することができます。

 

頭痛の多くは腫瘍の存在する部位の近辺で血管や硬膜が圧迫を受けて起こります(牽引性頭痛と呼びます)。牽引が起こる機序は患者さんによりそれぞれ異なります。痛覚受容体が密に存在するところの近傍で腫瘍が増大すれば,局所の痛覚感受性組織が進展されて頭痛が起こりえます。

 

また、腫瘍による周囲脳実質の浮腫,髄液路の閉塞による(続発性)水頭症、二次性の出血なども牽引性頭痛の誘因となります。頭蓋内圧亢進状態では局所以外の痛覚感受性組織も刺激を受けます。

 

その他、痛覚刺激を伝達する三叉神経第1~3枝を巻き込んで進展する腫瘍の場合には、その支配領域の頭痛或いは顔面痛を訴えることもあります.

 

更に、腫瘍に伴う社会的・心理的因子が絡んで頭痛が起こることもありますし、頭痛が腫瘍と無関係に存在していることも往々にしてあり得ることです.

 

脳腫瘍患者さんの多くは頭痛が器質性頭痛(病変を伴っている頭痛)であることを示唆するようなその他の神経症状(麻痺や視野障害など)を有しており、頭痛が唯一の症状となるものは脳腫瘍患者さんの10%未満です。

 

腫瘍の存在部位との関係では、後頭蓋窩腫瘍において高頻度です。例えば、髄芽腫、上衣腫といった後頭蓋窩腫瘍では60~80%の割合で頭痛を伴います。

 

 

頭痛の性状としては、間歇的な痛みが80~90%であるのに対し持続性の痛みは10~20%です。鈍痛が約75%であるのに対して拍動性(脈打つような)頭痛は約25%と報告されています。頭痛を感じる部位としては前頭部が最も多く、後頚~後頭部痛も比較的多い。頭痛の発現部位と腫瘍の局在部位が一致するのは3分の1程度と少ないです。

 

脳腫瘍と関連のある頭痛としては早朝頭痛(morning headache)が有名です。しかし、その頻度は15~36%とさほど高くなく、日内変動は報告によりまちまちです。

 

体位変化のほか,咳や力みなども頭蓋内圧に変化を及ぼし頭痛は増強します。

 

 

頭蓋内圧亢進と頭痛

 

脳腫瘍の三大徴候としての頭痛,嘔吐,うっ血乳頭が有名です。これは頭蓋内圧亢進を示唆する所見であり,CTやMRIが発達する以前には、腫瘍が大きくなってこのような症状を出すまで見つけることが困難だったことも一因です。

 

実際に頭蓋内圧亢進を伴うのは頭痛を有する患者の30~40%ですし、一方、頭蓋内圧亢進状態にある全ての患者が頭痛を感じるわけでもありません。頭痛の有無や強さは頭蓋内圧亢進の程度とは比例せず,むしろ頭蓋内圧の変動と関連があるようです。

 

頭蓋内圧亢進を放置しておくと,最終的に脳ヘルニアを引き起こし意識障害に陥ります。中には脳ヘルニアが生じる直前まで軽微な頭痛しか訴えない症例もあるので注意が必要です。

 

脳腫瘍は時として第3脳室,中脳水道,第4脳室などの髄液路を閉塞し,急性の水頭症による頭蓋内圧亢進を引き起こします。第三脳室を閉塞する腫瘍としては頭蓋咽頭腫,胚細胞腫瘍,コロイド嚢胞などが挙げられます。中脳水道を閉塞する腫瘍としては松果体部腫瘍、胚細胞腫瘍、中脳背側神経膠腫などがあり,第4脳室を閉塞する腫瘍としては髄芽腫、上衣腫、脈絡叢乳頭腫などがその代表例です。

 

コロイド嚢胞は稀な腫瘍です。Monro孔付近の第3 脳室内にできる有茎の球状腫瘍で,患者の頭位によって腫瘍がMonro孔を閉塞し,水頭症による急激な頭痛を誘発します(ball valve徴候)。うっ血乳頭や他の理学所見を伴わないため,体位変換に伴う急激な頭痛などの特徴的な病歴が診断に最も重要です。

 

一方,脈絡叢乳頭腫は時として通常の4~5倍の髄液の過剰産生を伴い,交通性の水頭症を誘発することがあります。

 

 

脳腫瘍と頭痛;各論

 

 

脳原発悪性腫瘍(神経膠腫)

 

悪性脳腫瘍(神経膠腫)の初発症状として最も多いのは頭痛です。これは腫瘍の急速な増大に加え,周囲の脳実質に広範な浮腫が生じて頭蓋内圧が亢進するためです。

 

 

脳原発腫瘍(星状細胞腫)

 

悪性度の低い星状細胞腫でも頭痛はみられますが、腫瘍の増大は緩徐で周囲の浮腫も軽度ですので、局所の神経症状で発症することの方が多いです。

 

 

転移性脳腫瘍

 

いわゆる癌の脳転移です。腫瘍の急速な増大に加え,周囲の脳実質に広範な浮腫が生じて頭蓋内圧が亢進するため、頭痛は頻繁に見られます。

 

 

髄膜腫

 

髄膜腫のほとんどは良性であり,緩徐増大性であるため頭痛の頻度は少ないです。円蓋部に発生したものは麻痺や痙攣で発症することが多く頭痛はほとんどみられませんが、痛覚受容器の豊富な頭蓋底部に発生した場合は,頭痛を訴えることもあります.

 

 

聴神経腫瘍

 

聴神経腫瘍は難聴,耳鳴りで発症することが殆どで、頭痛を伴うことも稀ではありません。小脳橋角部腫瘍では,乳様突起の内部あるいは耳介後部に痛みを感じることがあるといいます。一方,腫瘍の大きさが3cmを越えて脳幹を圧迫するようになると、水頭症による頭痛の出現頻度が増します。こうなると頭痛は前頭部に感じます。

 

 

頭蓋咽頭腫

 

頭蓋咽頭腫は胎生期の頭蓋咽頭管の遺残(Rathke’s Pouch)から発生する先天性腫瘍です。下垂体柄に付着部を有し、トルコ鞍内から鞍上部,第三脳室などへ進展します。視力視野障害、尿崩症、小児の発育遅延、成人の性機能障害や無月経などで発症することが多いです。大人の場合は稀ですが、子供の場合は第三脳室前半部やモンロー孔を閉塞し、水頭症による頭蓋内圧亢進としての頭痛を生ずることがあります。

 

 

下垂体腺腫

 

下垂体腺腫では、頭痛は比較的頻度の高い症状の1つです。微小な腫瘍の場合は無症候か、あるいは内分泌症状のみですが、腫瘍が肥大しトルコ鞍(脳下垂体の入っているところ)を充満するようになると下方から鞍隔膜(この部位の硬膜)を押し上げ、三叉神経第2枝を刺激して頭痛を誘発します。通常は、眼窩深部から眼窩上部、こめかみにかけて頭痛を訴えます。腫瘍が鞍上部へと進展して鞍隔膜が破綻すると頭痛は落ち着きますが、今度は視神経を圧迫して視野障害を来すようになります。

 

 

下垂体卒中

 

下垂体腺腫を有する患者が突然の激しい頭痛,悪心,視力・視野障害を訴えたときには,腺腫からの出血が疑われます。これを下垂体卒中といいます。症状を伴う場合には緊急性を要します.

 

 

腫瘍からの出血

 

他の腫瘍でも,経過中に頭痛が急激に出現あるいは増悪する場合にはやはり腫瘍内出血を鑑別しなければなりません。一般に転移性脳腫瘍や神経膠芽腫などの悪性度の高い腫瘍において出血の頻度が高いといわれますが、髄膜腫、聴神経鞘腫、頭蓋咽頭腫などの良性腫瘍でも血管が豊富な場合には出血を起こしえます。

 

 

髄腔内播種

 

脳腫瘍の髄腔内播種(腫瘍が脳表面の各所に飛んでいってばらまかれた状態)では,髄膜刺激症状としての頭痛が生じます。この場合、項部硬直を伴います。原発性脳腫瘍の中では髄芽腫や悪性リンパ腫においてその頻度が比較的高いです。

 

 

髄膜癌腫症

 

癌の頭蓋内転移でも髄膜癌腫症(髄腔内播種と同様の状態)を生ずることがあります。原発巣が寛解状態にあり,難なく日常生活を送っていた人や、悪性腫瘍の既往のない人が突然の頭痛を契機に発見されることもあります。単純CTやMRIでは見逃される可能性があり、疑われる場合には造影剤を用いた検査を追加します。

 

 

頭痛に対する治療

 

脳腫瘍に起因する頭痛に対する治療は、頭痛そのものの軽減と、頭痛の原因の除去とに大別されます。脳腫瘍に関連した頭痛のほとんどは片頭痛やくも膜下出血に伴う頭痛ほど激烈なものではなく、頭痛の軽減のためには一般的な消炎鎮痛薬(痛み止め)が用いられます。麻薬系の鎮痛薬は意識レベルに影響することがあり、滅多に使用しません。

 

脳腫瘍に関連した頭痛の多くは頭蓋内圧亢進に基づくものであり、原因除去の基本も頭蓋内圧を下げることにあります。ステロイドや高浸透圧利尿薬なども、腫瘍に伴う脳浮腫を軽減する目的で使用します。特に悪性腫瘍において,これらの薬は症状を著明に改善することがあります。

 

頭痛の原因は脳腫瘍であり、腫瘍を除去することが頭痛の解消のための根本的な治療となります。脳ヘルニアを起こしたもの、あるいはそれに準ずるものに対しては緊急手術が必要です。そうでないものには手術に限らず放射線・化学療法を含めて総合的に判断し、最適な治療を行います。

 

なお、高度の水頭症を来している症例では、可及的に脳室外ドレナージ(脳脊髄液を体外へ出す手術)を行うことがあります。

 

 

上記のような症状に関して心当たりのある方は、お近くの脳神経外科で検査を受けてみましょう。

 

 

 

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