脳の病気まるわかり

手足の力が入らない(運動障害)

 

運動麻痺の評価

 

手や足などの体の全体または一部を自分の意志に従って動かすことが出来なくなる状態を運動障害もしくは麻痺と呼びます。手足の動きが少し残っている場合、不全麻痺と呼びます。

 

運動障害の程度は、徒手筋力テスト(manual muscular test:MMT)で5段階評価するのが一般的です。

 

5(Normal): 運動範囲全体に渡って動かすことができ、最大の徒手抵抗に抗して最終運動域を保持できる。
4(Good): 運動範囲全体に渡って動かすことができ、中等度~強度の徒手抵抗に抗して最終運動域を保持できる。
3(Fair): 運動範囲全体に渡って動かすことができるが、徒手抵抗には抗することができない。
2(Poor): 重力の影響を除いた肢位でなら、運動範囲全体、または一部に渡って動かすことができる。
1(Trace): 筋収縮が目に見える、または触知できるが、関節運動はおこらない。
0(Zero): 筋収縮・関節運動は全く起こらない。

 

 

運動麻痺の部位と鑑別

 

四肢麻痺

 

左右の手足全部が動かない場合、四肢麻痺と呼びます。四肢麻痺は、滅多に生じるものではありませんが、その原因が単一病変に基づくと仮定した場合、上位頚髄の病変の可能性が最も高いものであります。脳幹の比較的大きな病変でも生じることがあります。

 

脊髄損傷や脊髄腫瘍、脊髄変性疾患、後縦靭帯骨化症、脳幹腫瘍、脳幹出血などが考えられますが、このような病変の場合には運動障害以外の症状も伴うケースが殆どです。

 

片麻痺

 

左右どちらかの半身の手足の麻痺(片麻痺)は最も多いパターンの運動障害です。責任病巣としては、大脳半球、間脳、脳幹などが想定されますが、稀に脊髄に原因があることもあります。

 

突発性の片麻痺が生じた場合、脳卒中(脳梗塞脳出血)が第一に疑われます。緩徐進行性の場合、脳腫瘍の可能性もあります。その他、多発性硬化症を初めとする変性疾患、慢性硬膜下血腫、脳膿瘍なども片麻痺を生じる原因として重要です。

 

単麻痺

 

片方の上肢もしくは下肢のいずれかに限局した麻痺(単麻痺)がある場合、その原因は大脳から手足の末梢神経に至るまでの各部位の病変を疑う必要があります。また、その場合には単肢の全体に及ぶのか、ごく一部なのか、またその一部はどこなのかによって病変部位を見分けます。

 

手の麻痺に構音障害を伴う場合には、脳梗塞といった大脳の比較的小さな病変が最も疑われます。
一方、手の親指側の麻痺であれば、末梢神経である橈骨神経麻痺などが考えられ、その原因として最も多いのは手根管症候群ということになります。

 

対麻痺

 

両側の下肢の麻痺(下肢対麻痺)の原因として最も多いのは、胸~腰のあたりの脊髄の病変です。

 

外傷性脊髄損傷、脊髄腫瘍や脊髄の血管病変(前脊髄動脈閉塞、脊髄出血、脊髄梗塞、脊髄動静脈奇形)、脊椎椎間板ヘルニア、多発神経炎(ギラン・バレー症候群など)、脊髄係留症候群などが原因として考えられます。その他、感染性脊髄炎、急性脊髄前角炎(ポリオ)、脱髄性疾患(多発性硬化症など)、急性散在性脳脊髄炎(acute diffuse encephalomyelitis ADEM)、硬膜外膿瘍、HTLV-I関連脊髄症(HTLV-1 associated myelopathy HAM)、梅毒性髄膜脊髄炎(エルプ脊髄麻痺)、慢性硬膜外膿瘍、筋萎縮性側索硬化症、亜急性連合性脊髄変性症なども鑑別になります。
胸椎~腰椎にかけてのMRI検査を受けることが重要です。

 

稀ですが、脳の頭頂部に左右の大脳にまたがる様な病変があれば、両下肢の麻痺を生じることがあります。髄膜腫や、両側の前大脳動脈の血流障害では、このようなことが生じえます。

 

両側の上肢の麻痺はかなり珍しいと言えます。両上肢の麻痺で下肢の筋力低下や感覚障害を認めないもの(brachial diplegia)はman-in-the-barrel syndromeと呼ばれます。多発神経炎、運動ニューロン病、橋中心髄鞘崩壊などがその原因として報告されています。