脳の病気まるわかり

視力・視野障害

 

視力・視野障害の原因は

 

視力障害で困っている場合、その殆どは目の病気と関係がありますが、一部に眼球より奥に存在する視神経に原因があることがあります。

 

眼科を受診すると、視力がどの程度落ちているのか、そして視力が落ちる原因が眼球の中に存在するのかを見てもらえます。場合によっては、視野の検査を受けることになります。視力と視野に異常があるのに眼球の中にそれを説明できるような異常がない場合、脳神経外科を紹介されることもあります。

 

持続性の視力・視野障害を起こし得る病気のうち、脳神経外科で診療を受ける主なものに、眼窩内腫瘍視神経管(眼窩内から頭蓋内へ繋がるルート)の病変トルコ鞍近傍の脳腫瘍脳の後頭葉・頭頂葉・側頭葉の病変脳梗塞脳腫瘍など)が含まれます。また、一過性の視力・視野障害を起こしえる病気として、脳血流の関係が影響している可能性があります。

 

 

見え方の一時的な障害

 

閃輝暗点

 

 

閃輝暗点とは、突然視野にチラチラあるいはギザギザとした光が見え出して広がっていき、次いで視野の一部が見えづらくなる現象です。視界の一部が歪んで見えたり見えるものは、万華鏡の模様オーロラのようなもののケースもあります。15~30分程度で消えます。

 

片頭痛の患者さんでは、頭痛の前兆として「閃輝暗点」が見られることが多いものです。閃輝暗点が終了するころから次第に頭痛が起こります。片頭痛では、頭痛が起きる前に一旦脳の血管の収縮が起こるとされており、それに伴い、ものを見る機能の中枢である後頭葉の血流が減少すると閃輝暗点が生じるという説があります。その後、逆に脳血管が拡張して強い頭痛を生じます。

 

時折、頭痛を伴わない閃輝暗点を経験される方がいます。中年の場合の頭痛を伴わない閃輝性暗点では、脳梗塞、動静脈奇形、脳腫瘍などよる一過性の脳循環障害が原因のことが稀にあるという報告もあるので、一度脳血管の精密検査を受けてみたほうがいいと思われます。

 

 

一過性黒内障

 

ある日突然、片方の目だけが一時的に見えづらくなるものとして、「一過性黒内障」と呼ばれるものがあります。「見えなくなった」、「視界がが真っ黒になった」、「霧がかかるように白っぽくなった」状態が数分間続いて、元に戻ります。

 

このような症状の原因として、目の血流障害によるものの可能性があります。目に血流を届ける「眼動脈」と呼ばれる血管は、内頚動脈の枝です。一過性黒内障は、内頚動脈に動脈硬化が生じて細くなっている場合に生じる症状として知られています(参照:頚動脈狭窄症)。

 

内頚動脈は、首を通って脳に血流を送る血管の代表ですが、この血管が細くなって狭窄を生じると、このような症状を起こすことがあります。その機序として、2つのものが考えられます。1つには、細くなった部分の血管の壁についた血栓(血液の塊)が剥がれて血流に乗ってそのまま眼動脈に流れ着いたとき、眼動脈が詰まってこのような症状をきたすことが考えられます。もう一つには、血圧の変動(低下)などをきっかけとして、細くなった血管の先の血流が不足して眼動脈の血流障害を生じる可能性が考えられます。

 

このような症状は、脳の血流障害の前触れと知られています。内頚動脈は、脳へ血流を送る極めて重要な血管です。血栓が脳の血管に飛んで行ったり、内頚動脈の血圧が下がって血流不足が生じたりすると、脳の血流不足による症状が出ることがあります。これが持続すると、脳梗塞に至ります。一過性黒内障は、脳梗塞の前兆である「一過性脳虚血発作(TIA)」の一つでもあります。

 

なお、眼動脈の枝である「網膜中心動脈」は、眼底に分布する動脈です。この「網膜中心動脈」の本幹が閉そくした場合には同様に片目が真っ暗になります。また、網膜中心動脈の枝が閉そくした場合には片目の部分的な視野狭窄が生じます。網膜中心動脈やその分枝の血流障害に伴う視野障害は緊急を要するもので、発症から1~2時間以内に血流の改善が得られないと視力の回復も難しいとされています。

 

 

見え方の持続的な障害

 

眼窩内腫瘍

 

眼窩内腫瘍とは、眼球が入っている骨の穴(眼窩)のうち、眼球以外にできる腫瘍を示します。眼窩の表面には眼球がありますが、その裏には視力をつかさどる視神経、眼球の運動をつかさどる3つの神経、眼球を動かす筋肉、涙腺、前額部(ひたい)の感覚神経、そして眼窩内の筋肉を動かす神経、涙をコントロールする神経、動脈、静脈、更にはこれらを包み込む脂肪組織などが入っています。こうした組織のどれかから腫瘍やその他の病変が発生することがあります。眼球から発生した病変は主に眼科で治療を受けますが、眼球の裏に発生した病変については脳神経外科で治療を受けることが多いのです。その理由としては、この部位に到達(アプローチ)する場合には開頭手術が必要になるからです。

 

目の奥に病変がある場合、眼球を外して摘出後に戻すということは不可能です。眼球をそのままにした状態で眼球の裏にある病変のみを摘出することを考えなければなりません。そのために最も現実的なのが、頭がい骨をいったん外し、眼窩を形成している骨を外してから病変を取るというアプローチです。こうした方法は殆どの眼科医にとっては馴染みのない方法になりますので、脳神経外科で行われることが一般的なのです。ただし、眼窩というのは脳神経外科医にとってもそれほど馴染みのある場所でもありませんので、眼窩内の解剖を熟知した医師や、多少なりとも眼窩内腫瘍の経験がある脳神経外科医に手術を依頼したほうが無難です。

 

 

視神経管近傍での障害

 

眼窩内を出た視神経は、視神経管という骨の中の穴を通って頭蓋内に入ります。視神経管の中の病変というのは比較的少ないと言えます。その中でも頻度が高いのが、重症の頭部外傷に伴う視神経管の骨折と、脳腫瘍の視神経管内への伸展です。

 

重症の頭部外傷患者さんでは、眼球に異常がないのに片目の視力が極端に落ちることがあります。その場合には、視神経管の骨折を疑う必要があります。難しい話になりますが、視神経管の骨折による視神経損傷の場合、直接対光反射は障害されますが、間接対光反射は保たれます。厚さ1mm程度で細かく切ったCTで視神経管周囲を調べますと、その部位の骨折が疑われます。しかし、ただ骨折しているだけでは視力は落ちません。骨折して骨が歪んだりずれたりしている場合に、骨によって視神経が圧迫されて視力が低下するのです。視力が低下している場合、なるべく急いで視神経管を拡げる手術をしないと視力回復は望めません。しかし残念なことに、このような患者さんにおいては大抵重症の意識障害を伴っていることが多く、視力障害を速やかに発見して視力回復に結び付けることは容易ではないと思います。

 

脳腫瘍の視神経管内への伸展による視力低下は、主に眼窩内腫瘍や後述のトルコ鞍上部腫瘍、特に髄膜腫などで起こりやすいものです。この場合、主病変である腫瘍の摘出が重要になりますが、その際に視神経管を開放して視神経管内の腫瘍を摘出するかどうかが議論の的になることがあります。視神経管内に入り込んだ腫瘍を放置していると、視力が更に低下する可能性があります。ただ、このような操作自体が視神経を痛めつける可能性もありますし、またうまくいっても視力回復が望めるかはわかりませんので、主治医の先生とよく協議のうえで検討するのが望ましいです。

 

 

トルコ鞍上部病変

 

視神経が視神経管を抜けると頭蓋内に入り、トルコ鞍上部といわれる部位になります。この部位は視野障害の原因として最も重要な部位になります。左右の目から出た視神経はこの部位で合流し、交差します。このため、この部位を視交叉と呼びます。視交叉を過ぎて再び分離した神経は、視索と名前を変えて、間もなく脳内に入っていきます。

 

この部位の障害による視野欠損では、両耳側半盲というのが最も典型的な症状と言えます。右目の右側と左目の左側の視野がともに欠損する状態です。これは、腫瘍などにより視交叉が圧迫を受けた時に生じます。このような特殊な視野障害が生じる理由を理解するには、視神経の線維の走行を理解することが必要になりますので、ここでは割愛させていただきます。さて、視交叉の圧迫であっても、その圧迫がさらに強まると視野狭窄はさらに広がり、視力低下も加わって、最終的には失明を来す原因となります。

 

一方、時に病変の増大に伴い視神経は病変そのものではなく、視神経の上を走行する前大脳動脈の圧迫による視野狭窄を生じる特殊な状態となることもあります。この場合は、非典型的な視野狭窄を生じることもあります。なお、視交叉より手前の視神経が障害された場合にはやはり左右のうち一眼の視野の狭窄および視力低下が起こります。

 

トルコ鞍上部で視野狭窄を来す病変は、主に脳腫瘍です。脳腫瘍と言ってもその殆どは脳の外から発生した腫瘍(脳実質外腫瘍)です。そして、この部位にできやすい病変は多数あります。代表格は脳下垂体の細胞が腫瘍化してできる、下垂体腺腫で、この部位では最も多くみられるものです。その他の腫瘍で頻度の高いものとして、髄膜腫頭蓋咽頭腫ラトケ嚢胞などが挙げられます。この部位の髄膜腫は、鞍結節部髄膜腫と呼ばれます。他に、青年期に多いものとして胚細胞腫瘍なども生じえます。

 

この部位の腫瘍との鑑別診断として時に重要なものは、内頚動脈に発生する脳動脈瘤です。最初は腫瘍と思われていた病変が、精密検査の結果、脳動脈瘤であることが判明する例があります。

 

 

脳内の病変

 

脳内では、外側膝状体というところが起点になります。ここから側頭葉と頭頂葉に扇状に分散して広がります。この部位を視放線と呼びます。視放線は広範囲に広がっていますので、脳の一部に病変が存在している場合に起こる視野障害は部分的なものになります。具体的には、側頭葉に限局した病変では、病変が存在する部位の反対側(病変が右なら左視野)の上側の視野欠損が、頭頂葉に限局した病変では、病変が存在する部位の反対側(病変が右なら左視野)の下側の視野欠損が生じることになります。このような障害を来し得る病変としては、脳腫瘍脳梗塞などが挙げられます。

 

後頭葉は、視機能中枢があるところです。眼球を通して入力された視覚情報は、後頭葉の最後端(後頭極)の視覚中枢で一次処理を受け、画像として脳裏に焼き付けられます。この視覚情報は、脳の他の部位に投影され、更に処理されていろいろな解釈や装飾がなされることになります。後頭葉の病変では、一側の広範な視野障害を生じえます。典型的には、半盲(同名半盲)と呼ばれる状態になります。全盲にならないのは、視覚中枢が左右の脳に分かれているからです。もっと具体的にいうと、両目の、右側の視野の情報は左後頭葉へ、両目の、左側の視野の情報は右後頭葉へ集まります。このような障害を来す病変としては、やはり脳腫瘍脳梗塞などが挙げられます。