脳の病気まるわかり

瞳孔不同(左右の瞳孔のサイズが異なる)

 

瞳孔不同は重要なサイン

 

瞳孔不同は、脳神経外科医にとって特別に重要な徴候の一つです。

 

ただ、一般の方が瞳孔のサイズなど気にかけることは殆どないでしょう。

 

瞳を見ると、黒目はやや焦げ茶色をしていて、黒目の中央に真っ黒な丸い部分があるのがわかります。これが瞳孔です。瞳孔のサイズは周囲の明るさで変化しますが、健常人においては常に左右同じ大きさをしています。正常の大きさは2.5~4.0mm程度とされ、明るいところでは縮小し、暗いところでは大きくなります。この大きさは、動眼神経という脳神経によりコントロールされます。2.5mm未満を縮瞳、4.0mmより大きい状態を散瞳といいます。

 

眼科的な疾患の中には、瞳孔不同を生じることがあるものもあります。

 

我々外科医が縮瞳をしばしば見かけるのは、全身麻酔で深く眠った患者さんの瞳孔です。ホルネル症候群でも縮瞳します。ホルネル症候群は、腫瘍や外傷により交感神経が頚椎~上部胸椎レベルで障害を受けて生じるもので、縮瞳のほか、眼瞼下垂、瞼裂狭小(瞼が落ちる)、発汗低下などを伴います。その他、抗コリン薬中毒など、一部の薬で引き起こされることもあります。

 

一方、散瞳は動眼神経麻痺の徴候です。動眼神経麻痺は左右1本ずつありますので、どちらかの動眼神経が障害を受けた時にはどちらか一方の瞳孔が開きます。また、動眼神経は瞳孔の調節のみではなく、まぶたを開く動作や眼球を上下左右に動かす動作に関わりのある神経なので、まぶたが開かなくなったり、両目で見た時に焦点が合わないといった症状を伴います。では、動眼神経が障害を受ける要因とは何なのでしょうか。

 

 

動眼神経障害の原因

 

動眼神経の障害の主な要因は、脳動脈瘤②糖尿病脳腫瘍④頭部外傷⑤脳ヘルニアなどです。

 

 

① 脳動脈瘤

 

脳動脈瘤による動眼神経麻痺は、脳動脈瘤の増大の徴候、破裂の徴候と言われます。ただ、全ての脳動脈瘤がこのような徴候を示すわけではなく、動眼神経の近くに出来た動脈瘤に限られます。具体的には、最も多いのが内頚動脈と後交通動脈の分岐部に出来た動脈瘤です。そして、稀にあるのが脳底動脈と上小脳動脈の分岐部に出来た動脈瘤です。動眼神経が障害された患者さんの多くは、まぶたが下がってきた(眼瞼下垂)と訴えて来院されます。目を開くとものが二重に見えます(複視)。そして診察時に瞳孔を観察すると、開いています(瞳孔不同)。

 

こうした症状を脳神経外科医が見つけたら、直ちにMR血管撮影もしくは3D-CT血管造影検査を指示します。このような一側の動眼神経麻痺の患者さんに起こり得る病気のうち、脳動脈瘤の切迫破裂(破裂手前の状態)が最も危険なものであり、いち早く診断して破裂を未然に防ぐことがとても重要なのです。

 

もし、こうした検査で動脈瘤がみつかれば、直ちに手術を勧めることになるでしょう。

 

② 糖尿病

 

もし脳動脈瘤がなければ、糖尿病など、他の原因も併せて疑います。血液検査で血糖値やヘモグロビンA1cの検査が必要になります。

 

専門的な話になりますが、動脈瘤による動眼神経麻痺は、動脈瘤が動眼神経を外から圧迫して生じるのに対し、糖尿病性の動眼神経麻痺では局所の血流障害がその主な原因です。従って、血流が生じにくい神経の中心部分からダメージを受けます。

動眼神経の中心部には目の動きや瞼の挙上に関する「外眼筋」の神経が、辺縁部には動向に関する「内眼筋」が奏効しています。

このため、出てくる症状も多少異なり、動脈瘤では瞳孔不同が強く現れますが、糖尿病性の場合には目の動きの障害(眼球運動障害)や瞼が落ちる(眼瞼下垂)といいた症状(外眼筋麻痺)が出現しますが、瞳孔不同を来すことは比較的少ないと言われています(瞳孔回避)。

 

糖尿病性神経症には、ゆるやかに進行する多発神経障害(polyneuropathy)が圧倒的に多いのですが、動眼神経麻痺は急速に生じるも自然に回復する傾向にあります。経過は比較的良好で、2~3か月以内に回復することが多いようです。

 

③ 脳腫瘍

 

脳腫瘍やその他の稀な幾つかの頭部の病変でも動眼神経麻痺が生じることがありますが、こうした病変も含めて、先のMRI検査やCT検査では動眼神経周囲に異常がないかを確認しています。

 

下垂体卒中というものがあります。これは、下垂体腫瘍からの出血や内部での脳梗塞が原因で頭痛を生じたり周囲の脳神経に影響を及ぼしたりするものです。動眼神経麻痺を伴うことがあります。

 

④ 頭部外傷

 

頭部外傷後に脳神経損傷を起こすことがあります。この場合には通常、眼球運動障害を伴います。

 

⑤ 脳ヘルニア

 

脳ヘルニアはやや特殊な状況です。これは、頭蓋内病変に伴う意識障害の極みで起こり得ることです。ですので、元気に活動している人には起こりえません。急性の脳出血や、脳腫瘍の末期などで脳が病変により圧迫を受けるようになると意識障害が起こり、これが更に進行すると動眼神経が捻れて挟まれ、麻痺します。この徴候があれば、不可逆的な意識障害が迫りつつあるということになります。ですので、この徴候を見つけ次第、迅速な対応が必要になります。暫く放置していると状況は更に深刻となり、最後には命を落とすことになりかねません。なお、脳ヘルニアで瞳孔が両側とも散大してしまうと、治療しても戻ることは稀です。ここまで来ると積極的治療を行うべきかについては慎重に判断すべきかもしれません。