脳の病気まるわかり

嚥下(えんげ)障害・むせ

 

嚥下障害について

 

嚥下障害は、口に入れた食べ物を胃に流し込むという機能の障害です。食べ物を「飲み込む」という動作が出来なくなります。

 

口の中のものがうまく呑み込めなくなると、食べ物が喉でつかえるようになり、飲み込みに時間がかかるようになります。また、食べ物が食道(口から胃への通り道)ではなく気管(口から肺への空気の通り道)に漏れて入ってしまうようになります。これを、誤嚥と呼びます。誤嚥すると、むせたり咳込んだりします。

 

神経機能の保たれた人では、気管に入ったものを押し出そうとする機能が強く働きますが、神経系が弱っている人では誤嚥しても出せずに肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎と呼ばれるものを発症します。誤嚥性肺炎になると、発熱、痰の増加が起こり、悪化すると痰づまりで気道が閉塞して体内の酸素が足りなくなってしまいます。

 

 

原因は

 

嚥下障害の原因として最も多いのは、脳卒中脳梗塞脳出血など)です。脳卒中になると、手足の麻痺のみならず嚥下に関わる咽頭のあたりを動かす機能も麻痺してしまい、誤嚥を起こしやすくなります。

 

その他、嚥下に関わる咽頭や声帯の動きには主に舌咽神経・迷走神経という2つの神経が関与していますので、こうした神経を巻き込んだ腫瘍や、このあたりの手術の後にも起こりやすくなります。また、脳およびこうした神経を巻き込むような各種の神経疾患や筋疾患も嚥下障害の原因になります。

 

大脳皮質・皮質下、そして橋に原因がある場合は仮性球麻痺と呼ばれ、延髄に原因がある場合は球麻痺と呼ばれます。仮性球麻痺による嚥下障害の原因疾患の代表は脳卒中です。その他、筋委縮性側索硬化症(ALS)や多発性硬化症なども挙げられます。

 

延髄や同部位から出ていく脳神経の障害による場合を球麻痺と呼びます。球麻痺の原因として、脳卒中のほか、筋委縮性側索硬化症、ギラン・バレー症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、この部位の脳神経外科手術後などがあります。

 

身体能力の低下した高齢者の肺炎のうち、かなりの部分は誤嚥性肺炎だと思われ、社会的な問題になっています。

 

 

検査は

 

嚥下障害に関する原因の調査には脳のMRIを含めた諸検査を行います。また、嚥下の状態変化は耳鼻科で行います。口腔・咽頭・喉頭の動きを後頭ファイバースコープなどを用いて直視下に観察します。嚥下障害が疑われる際には、造影剤の入った水を飲み込みながらX戦透視を行う、嚥下造影検査が行われます。

 

 

治療は

 

脳卒中のあとの急性期や、脳手術後の障害であれば、嚥下専門のリハビリを行うことで、嚥下機能のある程度の改善が見込まれます。また、食べ物を工夫してとろみのあるものにすると飲み込みやすくなります。

 

リハビリには直接訓練と間接訓練とがあります。間接訓練とは、食べ物を口に入れずに行うトレーニングで、口や舌を動かす練習や飲み込む練習などを行います。
一方、直接訓練では、実際に口に食べ物を入れて飲み込む練習をします。ゼリーなどの誤嚥しにくいものから開始します。

 

肺炎を繰り返す場合、気管切開という方法を勧められる場合もあります。これは、喉の下の方に穴を開けて、空気の通り道を食べ物の通り道と分ける方法です。ただ、空気が声帯を通らずに肺に入っていきますので、声が出せなくなります(スピーチカニューレと呼ばれる、声を出せるようにするための特殊な装置もあります)。気管切開は、空気と食べ物の通り道を分けるほかに、気道の管理を容易にするもので、むしろ後者の方が主な目的です。ただ、気管切開を行っても誤嚥を完全に防ぐことが出来るわけではなく、誤嚥は起こりえます。

 

その他、声帯や喉頭の運動障害をもつ一部の患者さんに対して、嚥下機能改善あるいは誤嚥防止を目的とした手術を行うことがあります。

 

嚥下機能の改善が見込めない患者さんであれば、栄養補給の方法の変更を検討せざるをえません。代わりの方法として、鼻から胃に挿入したカテーテルから栄養を流す方法(経鼻胃管)、胃に直接栄養を流し込む方法(胃瘻)、点滴に頼る方法があります。

 

経鼻胃管の場合、栄養はチューブの中を通って鼻から喉、食道、胃へと入っていきます。この胃管を長期に入れっ放しにしておくと衛生上の問題が生じますので、週に1回程度入れ替えるのが普通です。ですので、医師や看護師のいる施設で行わねばなりません。また、挿入後には確実に胃に入っていることをX線検査で確認したほうが安全です。

 

胃瘻は、昔は手術室で外科的に行われていましたが、近年では内視鏡室で、胃カメラで胃の中を観察しながら局所麻酔下に穴を開けるPEGという方法が主流です。これだと15-30分程度で手技が終了します。胃瘻は、数か月に1度程度入れ替える必要がありますが、外来で簡単にできますので、自宅で生活する患者さんにも有効な手段です。

 

ただ、経鼻胃管も胃瘻も完全に誤嚥性肺炎を防げるわけではありません。胃の逆流防止機構が弱っている人では、胃から食道への逆流が起こりますし、また口腔内の少量の唾液が肺に流れ込むことが肺炎の原因に繋がることもあります。

 

点滴による栄養補給にも複数の方法があります。末梢の手足の静脈から補給する方法と、心臓に近い首や胸などの血管から心臓付近に直接栄養を補給する方法(高カロリー輸液)とがあります。前者では、高カロリーの栄養を入れることができないので、栄養量としては不十分になります。1週間程度の短期間なら問題を生じることはありませんが、長期に渡る場合には栄養不足は免れません。高カロリー輸液は、専用のカテーテルを挿入する際に血胸や気胸、動脈穿刺などの危険があるほか、2-3週間以上入れっ放しにしていると感染症(敗血症)になってしまう確率が高まります。ですので、この方法も長期に行うべき方法でありません。また、栄養素としても腸から吸収する場合と比較すると偏りがあります。