脳の病気まるわかり

高次脳機能障害

 

高次脳機能障害とは

 

高次脳機能障害とは、脳の損傷によって起こされる認知障害全般を指します。この中にはいわゆる巣症状(脳の局所の障害による症状)としての失語失認失行のほかにも、記憶障害注意障害遂行機能障害社会的行動障害などが含まれ、これにより日常生活や社会生活に障害が生じます。

 

診断には、脳の損傷の原因となるような脳の病気や怪我が明らかである必要があります。

 

通常、MRICT脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認できます。

 

高次脳機能障害の主な原因として、交通事故や脳卒中の後が挙げられます。それが原因となって、対人関係に問題があったり、生活への適応が難しくなっている場合、高次脳機能障害が疑われます。職場に戻ってから、問題が明らかになるというケースも少なくありません。

 

その他の原因として、低酸素脳症、脳炎、脳腫瘍などが挙げられます。一方、アルツハイマーやパーキンソン病は除外されます。その他、心的外傷後ストレス障害(PTSD)も除外されます。

 

 

記憶障害

 

新しいことが覚えられなくなる「前向性の健忘」と、過去の出来事を忘れてしまう「逆向性の健忘」とがあります。

 

① 前向健忘

 

前向健忘のある患者さんでは、発症後に新しい情報やエピソードを覚えることができなくなり、健忘の開始以後に起こった出来事は記憶に残らなくなります。いわゆる受傷後の学習障害です。

 

参考となる検査法

全般的記憶検査:ウェクスラー記憶検査(WMS-R)

言語性記憶検査:対語記銘課題(三宅式など)

単語リスト学習課題:Rey 聴覚的言語学習テストなど

視覚学習課題検査:Rey-Osterrieth 複雑図形検査、ベントン視覚記銘検査など

日常記憶検査:リバーミード行動記憶検査(RBMT)

 

② 逆向健忘

 

病気や怪我が起こった時点よりも前の記憶が失われた状態です。特にエピソードや体験に関する記憶が強く障害されます。

 

軽度の場合には最近の記憶や複雑な記憶でも部分的に覚えていますが、難しい課題を出すと出来なくなります。中等度では、最近の記憶や複雑な内容は覚えていませんが、古い記憶や体験的に習ったことなどは保たれています。重度になると、前向健忘と逆向健忘を含む全健忘、ほとんどすべての記憶が障害されてしまいます。

 

 

注意障害(半側空間無視を含む)

 

注意障害とは、周囲からの様々な刺激のうち、特定のものに意識を集中させることが上手くできなくなった状態をいいます。

 

① 全般性注意障害

 

集中困難・注意散漫:ある刺激に焦点を当てることが困難となり、ほかの刺激に注意を奪われやすい状態です。

 

参考となる評価法

抹消・検出課題

ストループテスト

心的統制課題

 

注意の持続・維持困難:より軽度な注意障害では長時間注意を持続させることが困難になり、時間の経過とともに課題の成績が低下します。課題を行わせると最初はできても15 分と集中力が持ちません。

 

参考となる検査法

Continuous Performance Test

CAT・CAS(標準注意検査法・標準意欲評価法)

D-CAT(注意機能スクリーニング検査)

抹消課題

 

② 半側空間無視

 

左右の大脳うち、損傷した側とは反対側の空間にあるものに対する認識が欠如します。同名半盲(視野の障害)とは異なります。特に右頭頂葉の損傷ではしばしば左側の無視が認められます。

 

参考なる評価法

BIT(行動性無視検査 日本版)

線分二等分検査

線分抹消検査

絵の模写

 

 

遂行機能障害

 

遂行機能障害とは、論理的に考え、計画し、問題を解決し、推察し、そして、行動するといったことができない状態をいいます。

 

① 目的に適った行動計画の障害

 

行動の目的・計画がうまくできないため、結果は成り行き任せとなります。外部の刺激に対する反応は自動的で衝動的になります。明確なゴールを設定できないため、行動を開始することが困難になり、発動性が低下します。一方、実行する能力は保たれているので、段階的な方法で指示をすると活動を続けることができます。

 

② 目的に適った行動の実行障害

 

自分の行動を管理・制御することの障害です。活動を管理する基本方針を作成し、注意を持続させて自分の状況を客観的に観察することができず、選択肢を分析しないため思いつきのままに行動して、失敗してもしばしば同様の行動を繰り返してしまいます。環境と適切に関わるためには、自分の行動を自己修正する必要があります。この能力が障害されることにより社会的に不適切な行動に陥ってしまいます。

 

参考となる評価方法

BADS (遂行機能障害症候群の行動評価)

WCST(ウイスコンシン・カード分類検査)

 

 

社会的行動障害

 

社会的行動障害は、行動や感情を場面や状況にあわせて、適切にコントロールすることができなくなった状態をいいます。

 

① 意欲・発動性の低下

 

自発的に活動することが少なくなります。運動の障害はないのにも拘わらず、一日の殆どをベッド上で過ごすなど、何もせずに毎日を過ごすようになります。

 

② 情動コントロールの障害

 

イライラした気分をコントロールすることができず、次第に感情がエスカレートして過剰な感情的反応や攻撃的な行動が見られるようになります。自身に問題があることを認めず、リハビリを受け入れなくなります。誘因もなく興奮して大声で怒鳴り散らすこともあります。介護者に対する暴力や性的行為などの反社会的行為が見られることもあります。

 

③ 対人関係の障害

 

高次脳機能障害のある方では対人関係に問題が生じることがあります。急な話題転換、過度に馴れ馴れしいまたは脱抑の効かないような発言や行動がみられたり、相手の発言の復唱、文面に沿った思考、皮肉・諷刺・抽象的な指示対象の理解がにがてになったりして、話題を生み出すことが困難になります。面接で社会的交流の頻度、質、成果を評価すると障害の程度が分かります。

 

④ 依存的行動

 

人格機能衰えたり、発動性が低下した結果として、依存的な生活を送るようになりがちです。

 

⑤ 固執

 

生活上のいろいろな問題に対して、手順が確立している場合には習慣通りに行動すればうまく済ますことができます。一方、遂行機能障害があると新たな問題には対応できません。そのような際に高次脳機能障害のある方では認知・行動にかかわる発想の転換がうまくいかず、従前の行動を再び繰り返し、固着してしまいます。

 

※ 参考:高次脳機能障害 診断基準ガイドライン

https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2013/06/1371705040.pdf