脳の病気まるわかり

スポーツによる頭部外傷

 

スポーツと頭部外傷

 

スポーツの最中に頭部を打撲することはしばしばあることです。ボクシングや柔道、アメリカンフットボールやラグビーでは、接触プレーによる頭部打撲の危険性があります。サッカーやアイスホッケーなどでは高速で動くため、出会いがしらや予期せぬ接触が起こり得ます。その他にも、ゴルフや野球などではボールが頭部を直撃する可能性があります。

 

スポーツによる頭部外傷の特徴として、脳震盪を起こしやすいことが挙げられます。

 

 

脳震盪の怖さ

 

 

脳震盪(脳しんとう)は、脳への外的な衝撃によって引き起こされた一時的な脳機能障害を指します。

 

スポーツ頭部外傷による脳震盪は、一過性の意識障害や健忘症状(記憶障害)、見当識障害のほか、頭痛や気分不良、視覚障害、平衡障害など幅広い症状を含んでいます。反応の低下や興奮しやすい状態、睡眠障害なども含まれます。

脳震盪は、多くの場合は短時間で消失します。長引くこともあり、その場合の多くは7-10日で消失しますが、約20%は3週間を超えるという報告があります。特に、小児や若年者では長引きやすいと言われています。

 

脳震盪の怖いところは、一度脳震盪を生じてから完全に回復するまでの期間は、次の衝撃よるダメージがより深刻なものになりやすい点、そして衝撃の蓄積は永久的な脳機能障害に繋がりやすいという点にあります。
ですので、競技者の脳震盪後の在り方については慎重でなければなりません。

 

 

SCAT3

 

 

国際オリンピック連盟が中心となって、スポーツによる脳震盪に関する声明を発表すると同時に評価・対処法を発表しています。現行版はSCAT3(Sports Concussion Assesment Tool)と呼ばれます。

 

https://www.rugby-japan.jp/wp-content/uploads/2016/03/scat3_ja.pdf

 

また、5~12歳のこどもを対象としたChild-SCAT 3もあります。

 

http://www.fujiwaraqol.com/concussion/child_scat3_ja.pdf

 

日本臨床スポーツ医学会の監修による頭部外傷10か条の提言は参考にすべき資料と言えます。

 

http://www.rinspo.jp/pdf/Protect_Your_Brain_2.pdf

 

その中にある、「スポーツ現場における脳震盪の評価」も有用です。

 

 

現場における脳震盪の評価

 

 

1. 自覚症状

 

意識消失 素早く動けない
けいれん 霧の中にいる感じ
健忘 何かおかしい
頭痛 集中できない
頭部圧迫感 思い出ない
頚部通 疲労・力が出ない
嘔気・嘔吐 混乱している
めまい 眠い
ぼやけてみえる 感情的
ふらつき いらいらする
光に過敏 悲しい
音に過敏 不安・心配

 

2. 記憶

 

以下の質問に全て正しく答えられるか
「今いる競技場(会場)はどこですか?」
「今は前半ですか?後半ですか?」
「最後に得点したのは誰(どちらのチーム)ですか?」
「先週(最近)の試合の対戦相手は?」
「先週(最近)の試合には勝ちましたか?」

 

3. バランステスト

 

「利き足を前に置き、そのかかとに反対の足のつま先をつけて立ちます。体重は両方の足に均等にかけます。両手は腰において目を閉じ、20秒のあいだその姿勢を保ってください。よろけて姿勢が乱れたら、目を開いて最初の姿勢に戻り、テストを続けて下さい。」

 

 

脳震盪の疑いのある選手は直ちに競技をやめ、専門家の評価を受けましょう。

ひとりで過ごすことは避け、運転はしないでください。

 

 

脳振盪が疑われた場合の注意

(SCAT3、child SCAT3 より)

 

 

頭部打撲に伴い問題となる症状は、受傷から24-48時間以内に起こりやすいものです。選手を1人だけにしてはいけません。そして、次のようなことがあれば、ただちに病院へ連れて行ってください。

 

・頭痛がひどくなる
・とても眠そうである、または起こしても起きない
・ひとや場所が認識できない
・嘔吐を繰り返す
・いつもと違う行動をとる、混乱しているように見える、とても怒りっぽい
・けいれんがある(手足が勝手に動いてしまう)
・手足に力が入らない、しびれる
・立位や歩行が不安定である、しゃべり方が不明瞭である

 

その他の注意点

– 体と頭を休める。
– 症状が改善するまで、飲酒は禁止。
– 医師の許可が出るまでは、運転しない。
– 睡眠薬を飲まない。
– アスピリン、抗炎症剤、あるいは鎮静作用のある痛みどめを飲まない。

 

小学生の場合の注意点

症状が消失するまでは、コンピュータ、インターネット、テレビゲームは控えた方が無難です。

脳振盪は子供が学校で学習する際の認知能力に影響を与える可能性があります。脳振盪の後に1~2日学校を休むのは理にかなっています(それ以上の欠席はあまり行われません)。

 

 

画像検査

 

 

脳震盪は、一般的に比較的軽度の脳損傷で、画像検査では異常が出ません。しかし脳震盪が疑われる場合には、頭部CTあるいはMRIによる器質的病変の確認が望ましいとされます。それは、脳震盪に硬膜下血腫びまん性軸索損傷などを併発している可能性があるからです。

数日経過しても症状が消失しない場合、特に頭痛が続く場合などもCTMRIを受けることが推奨されています。

 

 

競技復帰の基準

 

 

明らかに脳震盪と診断した場合は、受傷当日は復帰すべきではありません。

 

その後も自覚的・他覚的症状が消失するまでは競技復帰は許可されません。特に、小児や若年者では回復に要する期間が長くなるといわれており、注意が必要です。

 

競技復帰へ向けて十分な肉体的、精神的な休養をとることが重要です。また、日常生活における注意点として、テレビゲームやインターネットなどといった集中力や注意力が必要な活動は、回復の遅延を引き起こす可能性があるという指摘もあります。

 

症状が残存している場合には競技に復帰するべきではありません。脳震盪を一度起こすと、2回目の脳震盪を起こす危険性は3~5倍以上とも指摘されています。また、脳震盪を繰り返すと、回復がより悪くなってしまい、3回以上の脳震盪ではうつや認知機能障害が増加すると報告されています。

 

競技復帰には、徐々に負荷を加える段階的復帰が推奨されています。

 

1. 活動なし(体と認知機能の完全な休息)
2. 軽い有酸素運動(ウォーキングなど)
3. スポーツに関連した運動(ランニングなど)
4. 接触プレーのない運動・訓練
5. メディカルチェックを受けた後に接触プレーを含む訓練
6. 競技復帰

 

このような段階的な復帰の間には24時間の間隔を置き、競技復帰前にはメディカルチェックが推奨されています。つまり、競技復帰には、症状が消失してから最低でも1週間の準備期間が必要です。

 

諌山和男:スポーツ現場における脳振盪の頻度と対応;ラグビー. 臨床スポーツ医学27: 283-288, 2010.

 

 

セカンドインパクト症候群

 

 

セカンドインパクト症候群とは、脳震盪あるいはそれに準ずる軽傷の頭部外傷を受け、数日から数週間後に2回目の頭部外傷を負い、致死的な脳浮腫を来すものをいいます。1回目の脳震盪から30日以内(平均1~2週間)の時期とされます。

急性脳腫脹がその原因とされていますが、急性硬膜下血腫なども関与している可能性があり未だに仮説の段階です。死亡率は30~50%にも上り、生存しても何らかの神経学的後遺症を残します。

 

 

高次脳機能障害

 

 

頭部外傷を何度も繰り返すと、急激に悪化する場合と高次脳機能障害をきたす場合があります。

後者はボクシングに多いとされ、punch-drunk syndromeもしくはboxer’s encephalopathyとも呼ばれます。症状は認知機能障害を中心としたもので、認知症、運動症状、怒りっぽさ、多幸感、注意力低下などが見られ、頭部CTやMRIでは脳の萎縮がみられます。サッカーのヘディングについても高次脳機能に影響する可能性が指摘されています。

 

 

過去に頭蓋内病変の経験がある選手の競技復帰

 

 

急性硬膜下血腫や脳挫傷を起こしたことのある競技者においては、たとえ症状が消失し、画像上の血腫が消失したとしても、頭部への衝撃が頻繁に生じる可能性のある競技への復帰は原則として許可すべきではないと考えられています。
ボクシングや柔道においては、頭蓋内の外傷性変化や手術の既往がある人の競技復帰は認められていません。